「今日はお天気が良いですね、カミルさん。ぽかぽかです」

空中で足をぱたぱたと揺らしながら、隣で彼女がそう言って笑った。
僕がそれに「そうだね」と返すと、彼女はその笑みを一層深くする。それが嫌に心地良いと感じるのは、このぽかぽかとした陽気のせいなのだろうか。

ブルーベル村の少し外れにある憩いのベンチ。
こうして僕らが自然と隣同士に座るようになったのはいつからなのだろう。
小さな小さな境界線を越えたのはあまりに自然な流れで、僕にはそれすら曖昧なのだ。

「カミルさん」
「なに?」
「あれからもう、一年になるんですね」

“初めまして、サトといいます、よろしくお願いします”

そう言って小さくお辞儀をした彼女の姿をぼんやりと思い出す。
そういえばあの日もこんな陽気だったな、なんてことを思って僕は少しだけゆるく笑った。

まさかあの日出会った女の子と、こんな風に二人で話すようになるなんて。
そんなこと、当時の僕は思ってもいなかったのに。

そんなことをくるくると考えながら、当たり前のようにすぐ傍にいる彼女を見遣る。
するとそれに気付いた彼女が嬉しそうに笑みを作るから、僕も釣られて嬉しくなる。

一番高い位置から少しだけ傾いた太陽は、そんな僕らの背中をぽかぽかと温めていた。


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あの日君と言葉を交わした。
君と話すのが楽しくなった。
笑顔を見るのが好きになった。
笑顔にしたいと思うようになった。

それはまるで、忘れていたことをひとつひとつ思い出すようなプロセス。
いつの間にか僕の心に生まれていて、いつの間にか根付いていた。
そして僕と彼女は今、自然とこうやって隣同士でベンチに座っている。

「ふふ、カミルさん、何だか楽しそうです。どうかしたんですか?」

依然として足をぱたぱたと揺らしながら、彼女はそう言ってはにかんだ。ベンチが振動でギッギッと軋んだ音を鳴らしている。

「そう?……ならきっと、サトが楽しそうだからだよ」
「えっ?」
「サトが楽しそうだと、僕も楽しいから」

僕がそう言えば、サトはぴたりと揺らしていた足を止め、ぱっと目を丸くして僕を見た。心なしか頬が染まっているような気がする。でも僕はこの後、彼女が笑顔になるのを知っているから、やっぱり嬉しくなってそんな彼女に向かってにこりと笑った。

「じゃあ、二倍ですね」

予想通りにこっと笑った彼女の返答は、しかし僕にとって意外なものだった。だから今度は僕が「え?」と聞き返す。

「私もカミルさんが楽しそうだと、楽しいから。……ほら、二倍です。…ね?」

頬の横で指を二本立てながら、彼女はそう言って、ふふっと笑った。
そんな彼女を見ながら僕は暫し静止していたけれど、じわりと温かいものが胸に溶けるのを感じて目を細める。

(やっぱり、不思議な子だな)

彼女と初めて会った日と同じことを思う。
けれど、とくんとくんと脈打つこの朱は、あの日とは違う僕を、僕らを物語っている。



そう例えばそれは、花が太陽を求めて蔓を伸ばすような、至極当たり前のことのようで。
僕が彼女に惹かれたのも、何とも自然な流れだった。
小さな小さな境界線をいつ越えたのか。
それはあまりに自然すぎて、僕にも分からないでいる。

「これからもよろしくね、サト」
「…?…はい!もちろんです!」

これからの僕らに想いを馳せてそう告げれば、一瞬きょとんとした彼女がそう言って、太陽のように笑った。



花海棠/温和






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お付き合いありがとうございました!


Thanks!
君に枯れない花束を。

あお








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