いつかきっとまた会えるから。そのときは、それを目印にして会いに来てね。






命の流れが緑色に可視化した場所。いつの間にか私はそこに漂っていて、初めて来る場所なのに何となく私にはここが何処なのか分かっていた。分かっていたというか、ただ目を開けたとき「ああ、ここかぁ」って思った。

そして同時に彼も居るんだなって分かって、嬉しいような、けれど悲しいような気持ちになった。彼に会えるのは嬉しいけれど、彼はきっと「来るのが早いよ」って泣きそうな顔をするだろうから。

でもねきっと笑ってくれると思うの。泣きそうな顔で「早いよ」って言いながら、でも笑ってくれる。だから私も「そうだねぇ少し早かったかもなぁ」なんておどけてみせようと思うんだ。

「ふふ」

そんなことを考えていたら可笑しくなって来てしまって、私は人知れず笑いを溢した。

「何笑ってるんだ?」
「あ!ザックス!」

私はぴょんと跳ねるように身体を起こした。久しぶりの彼はやっぱり優しい目をしてる。

「ザックス、久しぶりだね!」
「そうだな。でも…エアリス、やっぱり、来るのが早いよ」

やっぱりね。言われると思った!彼は優しい人だから、そう言われると思ったんだよ!

「ふっふー」
「えっ何で笑ってんの!?」
「えへへ〜ないしょです」

私はそう言ってクスクスと笑ってみせた。変わらない彼とのやり取りはやっぱり楽しい。だから自然と心も弾んでうきうきが隠せなくなってしまう。あの頃みたいだ。思い出は多くはないけれど、忘れてなんてないんだから。

「エアリス、あの」
「なに、ザックス」

ポツリとザックスが少し沈んだ調子で言葉を落としたから、私はきっとあの事を聞かれるんだなって思って少し身構えた。

「クラウドのこと、だけど」
「…うん。…ザックス、見ててくれてたんだよね?ここから」
「……悪い、なんか、盗み見、って訳じゃないんだけど」

その、とザックスはもごもごと口ごもった。そんな彼に向かって私はにこりと笑ってみせる。見ていてくれていたんだって分かって、私は嬉しかった。
彼はきっと何処かで見てくれているはずだと思ってはいたけど、やっぱり確信を持つことが出来て私は嬉しかったのだ。

「ありがとねザックス、見ててくれてたんだ、私と、クラウドのこと」
「あ、うん」
「ずっと?」
「……うん」
「そっか」

単純に嬉しかった。彼が居なくなってから、私の心に出来た穴は何をどうしたって埋まることは無くて、いつでもふらっとした虚無感があった。それは普段は小さくても、時折ひどく押し寄せるもので、小さな私はそれがとても辛かった。
けれど彼がずっと見ていてくれていた。傍にいてくれていた。それだけで嬉しかった。

でも。
つまり、それは、彼が私のあの瞬間を見てしまったということであって、目の前の彼はとても辛そうな顔をしていた。

「エアリス…その」
「ザックス、いいよ」
「え」
「いいの、幸せだったの。楽しかったの。旅をしたの」

ミットガルを出たときに見た夕焼けの燃えるような赤。
どこまでも高い空に鳥が飛んでいた。観覧車から見た花火はすごく綺麗で、アトラクションのネオンもすごく眩しかった。


クラウドと一緒に歩いた。
ティファと笑って話をした。
ナナキの頭を撫でた。
シドに頭を撫でられた。
ヴィンセントに守ってもらった。
バレットに戦い方を教えてもらった。
ユフィとイタズラの計画を練った。
ケット・シーと星空を見た。



たくさんの、旅をしたの。


「だからね、楽しかったよ」
「……エアリス」
「目を閉じるとね、思い出すの。みんなの笑った顔をね、すぐに。それでね、ああ、幸せだったなぁって、楽しかったなぁって私すぐ、思うんだよ」
「でもまだ、出来たら一緒に居たかったんじゃないか?みんなと」
「うーん。どーだろね?」
「どうだろって」
「だって、ふふ。みんなとまだ居たかった〜なーんて言ったら、ザックス、拗ねちゃいそうだもん」

ふふふ、と私は笑う。ザックスは鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに一瞬きょとんとして、そして少しバツが悪そうに頭の後ろを掻いた。目の下が赤い。変わらないなぁ。

「ねぇザックス」
「ん?」
「また一緒に居られるといいね、みんなと」
「そうだな」
「……うん」

少しだけ言葉を濁す。頭の中にある不安を小出しにしながら、私達は話した。はっきり言葉にするのはやっぱり怖かったから。

「時間、かなぁ」
「かもな」
「ザックス」
「なに?」
「待っててくれてたんでしょ?ここで」
「うん」
「どのくらい?」
「ん〜〜覚えてない」

あはは、と私は笑った。釣られてザックスが笑ってくれる。それが嬉しくて、私は少しずつ溶けていく自分と彼の身体を、何となくだけど受け入れられるような気がした。



ねぇ、生まれ変わりってどういうことなんだろうね?
また会えるってことなのかな?
また会えるとして、私は私の記憶とか想いとか、ちゃんと覚えていてくれるかな?

「手、つなご」

ザックスがそう言って私に手を伸ばす。半透明な私と彼の手を重ねて、私たちはお互いに笑みを溢した。感触とかは分からない。それは最後に彼と手を繋いだのが遠い遠い昔だからなのかもしれないし、違うかもしれない。けれどただ、私はそうだったらいいなぁと思った。

「ザックス、あげる」
「何?これ」
「ゆびわ。スラムマーケットで買ったの。ザックス私にリボンくれたでしょ?だからね、それのお返し」

はい、と言って私は彼に指輪を差し出す。そして実はお揃いでした〜、なんて言いながら自分の左手に光る指輪を見せた。

「ねぇザックス、今度会うときは、その指輪をしてきてよ。会うときの約束、でしょ?私ばっかり約束されてちゃ、なんだかなぁ〜って感じだもん」
「はは、分かった。じゃあエアリス、ちゃんと見つけてよ?俺のこと。もしかしたらすっげー遠くの外国人とかになってるかもしんないけど。言葉とか分かんない感じの」
「ふふ、あり得るね!でも絶対見つけるから!だからザックスも、私のこと見つけてね?ほら、同じリング、してるんだからね?」
「あったりまえ!俺がエアリスを探し出せないわけないだろ?」

そんな他愛もないやり取りをして笑いあった後、私たちは静かにお互いの額をコツンと合わせた。繋いだ手の指を絡める。薬指に嵌めたリングがその存在を示すかのように骨に当たって、何だか変な感じがした。


生まれ変わったらまたみんなに会いに行こう。沢山の幸せを持って。


さよなら、またね。





120110









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