バイキングに鬼がいた。


テーブルにはお子様ランチ用の皿。

肉が山盛りになっている。7百グラムはあるだろうか。

あと、鮮やかなピーマンと、そしてプチトマト。



男は食べている。


肉。肉。肉…



とめどなく、食べている。


肉。肉。肉…


そして、焼く。焼く。焼く…。


食べる。食べる。食べる。


eat,eat,eat…


肉。肉。肉…



口直しに、ほぼ生のピーマンをかじり、あと、プチトマトをつまむ。


そして、肉。肉。肉…



その姿は、オニだ。

そう。バイキングの鬼。


一皿平らげた。


おもむろに肉を取りに行くオニ。



戻り、着席とともに、焼く、焼く、焼く…


食べる、食べる、食べる…


オニの後ろのボックス席のガタイのいい男2人。

「こっ‥こええよォ」


そんな声が聞こえるような気がした。



肉を焼いて40分。


オニが食べた肉は約1.5キロ。


デザートは食べない。
減肥茶のみ。(減肥茶かっ。)



これほど食べてもその男のテーブルは全く汚れていない。

重なったお子様ランチ用の皿3枚のみ。

しかも、いちばん上の皿はピーマンなどが乗っていた真っ白なものとなっている配慮。

あと、グラス1つとトング、整った割り箸がきれいに乗っている。


それのみ。



席を立つ男。


男はひたすら45分食べ、潔く席を立った。



かたづけの女性2人が眩しそうに見つめる。


50代のパート女性がつぶやく。

「漢(おとこ)だねぇ…」


後期高齢にさしかかったもう一人の女性が続ける。
「あたしがもう35、いや30若ければ、黙っちゃいなかったのにサ。」

「しんだ亭主を思い出すよ…」



男は店の外に出る。


5月の風が心地よい。


「薫風‥自南来‥か…」



爽やかに車に向かうボスであっ‥

わたしかっ!!