「数値が上昇していると思えば……。また翅を使いましたね、プリンセス」
ミーナは入室してきた男を見上げる気力もない。
思い出す。男の名前がエラム・ギュレムであること。年齢は四十半ばから五十であること。丈の長いローブを着ていること。ミーナをずっと探していたこと。ミーナをここに連れて来たこと。おそろしい計画を立てていること。
「困りますな、プリンセス。いたずらに力を使うのは。貴女の肉体はまだ力に慣れていない。さぞや消耗の激しいことでしょう。計画に支障をきたす行為はお止め下さい」
もうひとつ。ミーナをまるで姫君の如く扱いつつも、その実は道具程度にしか思っていないこと。
「お父さんとお母さんのところへ帰して下さい」
ミーナはそう言ったつもりだったが、口から出たのはひゅうひゅうとした吐息だけだった。
「……わたしがこのまま死ねば、あなたは台無しですね」
今度は言葉になったらしい。エラムが不愉快そうに言う。
「……人間なら餓死も衰弱死もあるでしょう。しかし貴女は違う。プリンセス、いつまでも人間気分でいられては困ります。人間が死ぬような苦痛で易々と死ねると思いますな。貴女にあるのは長く引き伸ばされた死への待機時間だけだ。辛いですよ」
男は踵を返し、扉は再び閉ざされ外から施錠される。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。ミーナは顔を覆うとすすり泣いた。