「貴様が寿の…」
「あー!ミューちゃん、そろそろ撮影だよ!」
「フン」




今日はMV制作依頼を受けた、嶺二くんがいるユニットの撮影現場にお邪魔している。
本来、そうあるべきなのだけど。
いつもはデータを送ってもらって、家で作業してばかりだったから、新鮮。というか現場初体験。

邪魔にならないように、スタジオの隅っこに立っていたら、ユニットのカミュさんが声を掛けてきた。途中で嶺二くんが割って入ったから、言葉の先が聞けなくて悔しい。
そしてカミュさんはそのまま嶺二くんに連れて行かれた。


「キミ、見ない顔だね」
「あ、えっと、制作に携わらせてもらいます、りゅ…
「アイアイ!衣装さんが呼んでたよ」
「…そう」

今度は美風さん。
またしても嶺二くんに連れて行かれて、自己紹介もままならなかった…。
悔しい。


「お前がレイジの秘蔵っ子か」

シュンと落ち込んでいたら、頭上から声が降ってきた。
顔を上げれば、黒崎さんが興味津々といった様子で私を見下ろしている。

「…秘蔵っ子?」

なんだか聞き慣れない言葉に首を傾げると、それを不審に思ったのか頭を掴まれ目線を合わせられた。
オッドアイの目に自分が映っているのが怖い。
ヒキコモリには、誰かに注目されるのは怖い事なのだ。

あ、う、と言葉にならない声を漏らす。
生汗が出てきたのが分かった。

「ハッ、別に取って食ったりしねぇ」

完全に怯えモードだった私の頭をぐちゃぐちゃに撫で回して、額を小突かれる。

「ちょっとランラン!」

そこへ3度目の登場、嶺二くん。
嶺二くん、メンバーさんと私に距離を置かせようとしてる?
私が、人の目が怖いって言ったのを覚えてたの?
そう思うと。

「…だ、い丈夫だよ、嶺二くん」
「流架?」
「うん、大丈夫、うん」

少し虚勢を張って。自分に言い聞かせる。そして、嶺二くんが心配しないで撮影に臨めるように。
それが通じたのか、黒崎さんにぐちゃぐちゃにされた髪を手櫛で解いてくれて、最後にゆっくり頭を撫でられた。

「辛くなったらいつでも言うんだよ?」
「うん。大丈夫」
「マネージャーにも話は通してるから」
「ありがとう」

そんなやり取りをしていたら、撮影が始まって、嶺二くんもカメラの前に立つ。

コンテ通りの映像と、あとは監督さんのリクエストがあったり。
スタッフさんにモニターの前に連れて行かれた時はどうしようかと思ったけど、仕事モードに頭を切り替えて、繋ぎの映像を撮ってもらう。

1本のMVを作るのに、こんなに大変な現場がある事を学んで、これからは出来るだけ現場に足を運ぼうと思った。

どうせこの後は繋ぎ作業で部屋に籠るのだから。

最後に、嶺二くんのユニットのメンバーさんに改めて挨拶をさせてもらって、今更ごめんなさいと伝える。
皆さんが私に何か訊こうとすると、嶺二くんがそれを遮るので、まともな会話にはならなかったのだけど。






これからも一緒に仕事が出来たらいいな。