編纂者2(伝勇伝)
2017/12/03 20:55
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「……護衛も連れずに、不用心だとお思いですか?」

「そうですね」

「でしょうね。私も、褒められた行動ではないと自覚はしているつもりです。自重しなければ、と。けれど――」

「死ぬべきではないと分かっていると同時に、死んでしまってもいいと思う気持ちを捨てられない?」

「よくお分かりですね。私の作る兵器は人を殺しすぎました。自分だけは安全なところにいて、実際に人の血をかぶっていないにしても、いえ、その責を負っていないからこそ、私の罪は重いのです」

才ある者しか使うことのできない魔法と違い、誰にでも扱うことのできる兵器。容易に人を殺すことのできる道具。その開発を行うことで、自分と自分の領地を守ってきた。

疎んじられていることは知っている。簡単に手出しされない地位を手に入れてきたけれど、それでも先の見えないものは目先の感情にとらわれ存在を消す手段を取ってくるだろう。だから隙を見せてはいけない。自分の周りの優しい人たちになら、いくらでも自分の領地を任せることができるけれど、彼らは正式な後継者にはなれない。正当な理由がなければ、簡単に失脚させられ、追い出されてしまう。自分の後を任せてもいい人物なら心当たりがあるけれど、任せることができる人物というのはいまだいないのだ。自分のいなくなったあとの領地のことを考えると死ぬことなんてできるはずがない。罪悪感につぶされて、独りよがりで死ぬことなんて許されるはずないのだ。幸せを感じる資格がないと理解していながら、幸せでならなければならない。

「私の幸せは、私の周りにいる優しい人たちが幸せであることです。彼らが私の幸せを望んでいる以上、私は幸せであらねばなりません。そして、私の幸せの上で、ほかの人の幸せが成り立つのであれば、私は私が幸せであるための努力をしなければなりません」

楽な道に流されてしまいそうになることがある。たくさんの命を奪った自分が幸せであっていいはずがないと、この命でつぐなってしまおうかと、笑うたび、優しくしてもらうたびに、敬われるたびに影で考えてしまう。自分はそんな幸せをもらっていい存在ではないと、心苦しくなって逃げ出してしまいたくなる。けれど、それこそ許されざる行為なのだ。自分を戒めるために、##name_3##は一人で墓地を訪れるのだ。そしてそれは、きっと、目の前に立つ年若い王も同じなのだろう。


天才と名高い兵器開発者。冷酷で冷淡、かつ冷静。魔法を使わないながら氷の魔女と貴族の間で揶揄される彼女と、春の妖精のようにあたたかい存在だと領民の間で謳われる彼女。見極めにやってきたシオンはその背を見つめた。若干15歳にして父親を亡くし、よき領主であろうと4年もの間努め、今の地位を築き上げた彼女の背は凛としており領主の風格を背負っていた。けれど同時にまだ19歳のただの少女の頼りない華奢な背中であった。


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