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休日、古賀雅也は海へ向かい車を走らせた。 いつもは隣に女性を乗せているが、今日は男性が乗っている。 「明るい時間からメルと会えるのが嬉しい」 俺がそう言うと、助手席に座る彼は少し恥ずかしそうに笑った。 彼の名前はメル。 デリヘルをしているらしい。 これで会ったのは何度目だろうか。 メルと過ごす夜。 時間を重ねる度に見えてくる、寂しさ、哀しみ、不安。行為に求めるものに、どこか自分と重なるところがあると感じた。 居場所を必死に探している、 そんな感じだ。 メルは自分を風だと言った 一夜限りのものだと… それは寂しい気がして、 今にもいなくなりそうな気がして、 俺は彼の手を引いた。 彼と会う回数を重ねる度、彼のことを知る度に、惹かれていく。 時折感じる優しさに、懐かしさを覚える。 弟と妹がいると言っていたからだろうか。 今までメルとは、ホテルでしか会ったことが無かったから、今日は彼を外に連れ出したいと思った。 デリヘルとしてではなく、メル個人として会いたかった。 もっと心の距離を縮めたい。 愛してると言うと、彼はいつもはぐらかす。 彼は、愛を怖がっているようだ。 その度、彼が話していた「誰でもいいけど、誰でもよくない」と言っていたことを思い出す。俺との距離に、一線を引いていると感じるところだ。 「メル、これ個展のDM」 車に入ってすぐ、近々開催する個展のDMをメルに渡した。 「ありがとう、まさやのお兄さんに必ず渡すから」 そう言ってDMを受け取ると、彼は俺が書いた絵を興味深く見て、いろいろと聞いてくれた。 メルに個展のDMを渡したのは、長年仲が悪く、疎遠状態にあった兄、古賀鎮也との仲をとりもってくれると言ってくれたからだ。 メルは兄を客として知っているようだった。 彼から聞く兄の話しは、自分が思い描いていたものとは違ったものだった。 メルと話していると、兄に対して抱いていた感情、胸のつったかえたような感覚が軽くなったようだ。単純だろうか… 俺は、ずっと兄を許すきっかけが欲しかったのかもしれない。 「メルは、弟さんと話す機会は無いの?」 「遠いところに住んでいるから…、話す機会も無いかな」 自分がこんな仕事をしているなんて、言えないだろうと苦笑いを浮かべ話した。 「でも、この仕事をするのに理由があったんだろ?」 「まあね…」 濁した答えが返ってきた。 メルはたまに自分のことを話してくれる。 はぐらかされることの方が多いけれど、その中で、家族に対しての話題には複雑な気持ちを感じることが多かった。 生い立ちを全て知るわけではないが、メルと話しているときは、家族からの疎外感を強く感じる。 何も知らない自分に出来ることは少ない。 そんな自分にもどかしさを感じるが、今は彼の気持ちを聞きながら、少しずつ距離を近づけていけたらと思う。 海に着くまで、互いに他愛もない話しをして笑いあう。 この時間に幸せを感じる。 メルにとっても、 この時間がそうあってくれたら嬉しい。 そう思いながら車を走らせた。 ≪追記≫ +こころわけ *心海*+:(0) |