SCHOOL*DIARY

「1」
8月31日 16:02

担当:峰 剣吾

早退:八月
遅刻:最後
欠席:晩夏

 

 感無量。




 ……と、一言で済ませようとしたところ、のぞきこんで来たエゾケンに

「もっと書けよ!」

と、ツッコミついでの一発をもらった。
 エゾケンは足も速いが、手も早い。間違っても女子に、ではなく、男子に、だ。ああ、補足説明のつもりが余計な誤解を招いてしまいそうなのだが、まあ、アレだ。男子には容赦なく殴りかかるのが江添健太郎15歳……あれ……誕生日いつだったかな……まあ、いいや……そういうヤツだ。
 元々、茅には気の短い男子が多い気がする。いや、比較対照に大豊男子が加わったせいなのかもしれないが……エゾケンといい、ニシカワといい、セリザワといい、非常に気が短く目つきが悪い。おや、目つきが悪いと気が短いのは見事に一致するな。今度から、目つきの悪いヤツをみたら気が短いと言う、大いなる独断と偏見で接しようと思う。
 尚、そのエゾケンの「男子に対する容赦の無さ」と言うのは、純粋に性別だけによるもので……普通、拳を立てるならば相手の体格なども考慮するのではなかろうか、と思うのだが、彼の場合、一切、そのようなハンデはない。
 その証明が……エゾケンの隣にいる、ワタナベに対しての鉄拳制裁だ。
 江添家には大層、愛くるしい顔をした双子がいるそうだが……彼は全くもって容赦などせず、寧ろ、その双子と兄弟扱いをされる渡辺に関して……エゾケンは顔を見ないのか、趣味が俺と異なるのか……いや、別にワタナベが可愛いというわけではなく……まあ、一般男子と比較すると男子よりも女子と言うか、女子の中でも充分に愛くるしい顔を持っていると思うのだが俺はやはり女の方が……まあ、いいや……そのワタナベを殴るなど、誰でも一瞬の躊躇を見せるものだと言うのに、エゾケンは素で叩く。
 そりゃもう、

「宿題を忘れた!?」
で、パシン。

「問題が読めない!?」
で、ペチン。

「夏休みは補習だ!!」
で、プツン★

 端から見ている俺としては、ワタナベの頭の悪さは……ことあるごとにエゾケンが頭を叩くコトにより、元から微量程度のワタナベの脳細胞がいよいよ全滅に近付いていることが原因ではないかと思うのだが……まあ、いいや……その分、ワタナベができた時……そりゃもう、ワタナベにできることと言えば「はじめてのおつかい」程度の難易度なのだが……の際には、

「良く出来た!」
で、クシャクシャ。

「凄いじゃないか!」
で、グシャグシャ。

「本当にがんばった!」
で、ワッシャワシャ★

と、頭を撫で回し……これも、脳細胞(以下略)だと思うのだが……仲の良い幼馴染と言うよりは、丸で

駄犬とブリーダー

と、いう感じにしか見えない……と、書いた時点でエゾケンに今度は蹴られた脇腹が痛くて、俺、うめきそうなんだが……いつか、名犬ショウゲンが生まれる日を心待ちにしようと思う。
 しかし、相変わらず、ワタナベを犬呼ばわりされたことが気に入らないらしくエゾケンは俺を蹴っても尚、怒りが収まらないと言う様子であり、仕方なし……、

「ワタナベはネコミミより、イヌミミだろう」

と、付け加えたトコロ、今度はひざまずいて考え出してしまった……エゾケンは非常に、面白い。

 しかし、そんなエゾケンと野球部部室でこうして二人きりとなることは、今後はもう、ないだろう。

 ああ、また良からぬ誤解を招きそうな言い方をしてしまった。別に、常に、俺とエゾケンが野球部部室で二人きりの懇ろな雰囲気を楽しむ間柄というわけではなく……いや、同じ野球部に所属して、人生の半分以上は一緒に●●をしてきたのだが……字を間違えたので、塗りつぶしてみたら一層、よからぬ誤解を招きそうな……まあ、いいや……野球を一緒にしてきたわけなのだが、もう、その野球すら一緒に出来なくなるのだな、と思うと非常に感慨深い。
 野球すらと云うか、野球しかエゾケンと一緒に行っていたものはないような気がしないでもないのだが(因みに、エゾケンとワタナベは野球以外は全部一緒に行って居るような気がする)、終わりと言うものはいつも唐突に訪れる。
 
 否、唐突でないものなど、この世には何もないと思うのだが。

 野球を始めたのも唐突で、終わったのも唐突だ。
 何故か、野球部員は部活が終了しただけなのに、「野球が終わる」という言い方をしてしまう。他の部活動では単純に「引退」と言うべきところを、俺達は「野球」と言う言葉に回帰して話したがる傾向があるようだ。
 
 俺の場合は、名前が名前だったために、「剣道」だけはどうしても避けて通りたい道であったし(「剣吾」で、「剣豪」になれなかったら、それこそからかいの的ではないか!)何より、同じ学校では、既にクメが道場へ通い剣の道を極めだしていた。特に剣道を否定するわけではないが、クメの隣にいるのはこう……緊張感が伴うし、彼が小学校の六年間、自宅が美容院を経営しているというにも関わらず(それとも美容院だからだろうか)ずっと坊主だったのを見て居ると……こう、幼心に坊主は嫌だなあ……と。
 だからといって伸ばしたいわけではなく(揺れる髪などと言うのは王子で充分だ。あと、「散髪代が勿体無ぇ」とかほざいてるニシカワ。クメに切ってもらえばいい)しかし、何かしらのスポーツを周りが始めだした為、小学校の中学年くらいから始めたのが野球だ。
 野球と言えば坊主頭のイメージがあったため、エゾケンに「坊主にはしたくない」と述べたのが初めだったような気がしないでもないような……まあ、いいや……その時のエゾケンの返答と言えば、

「お前、それ、甲子園の見すぎ。プロ野球の選手っつったらボサボサな髪のヤツもいるんだから、別にボーズじゃなくてもいいんじゃね?」

であり、実際、そうだった。
 常に帽子やヘルメットを被る為に、髪が潰れ、坊主よりもひどい髪型になると言えばなるのだが、野球をしていないときは髪があった方が良い。
 元々、髪型云々というような厳粛な雰囲気など茅小の野球チームには一切無く、しかし、ある日……これもまた、唐突に……友永属する茅西チームと対戦した時は、真剣に今までの甘い考えを謝りたくなった。
 エゾケンに関して云えば、戦った翌日に、

「トモナガカーット!」

と、元々短い髪を更に刈り込んだほどだ。
 髪型を真似たところで、彼と同じプレイができるとは到底思えなかったのだが、それでも、何か一つでも通じるところがあれば良い……と、思わせるような存在がトモナガだったのだ。
 そして、俺の中ではそのトモナガは芸能人同等、条件が揃わないと会えない、限りなく架空に近い存在とみなしていたのだが……運命はまたもや唐突に、彼と俺達を引き合わせてくれたのである。

 トモナガの居る入学式、トモナガの居る仮入部、トモナガの居る野球部、トモナガの居る、この醜くも美しき世界……などと、云い出すとセカイ系マニアな人間に思われてしまいそうだが……そして、エゾケンはアッサリと、ソッチのセカイへ踏み込みそうな雰囲気だったが……まあ、いいや……空から美少女が降ってくるぐらい有り得ない事実、それが現実に起こりえたのだから、エゾケンの気持ちも分からないでもない。
 
 しかし、全く勝負魂と言うものが欠如している茅小学校の野球部員が多く所属する、茅中学校の野球部は……見事なまでに「勝ちに行く」と言う意識などなく……だからこそ、有難いことに、野球部でも坊主命令は無かったのだが……毎日、折角の「宝」を活用するでもなく一年を過ごした。
 エゾケンは、そんな現状にいきり立っていた様子だが、反対にトモナガは大人しいものだった。

 そして、二年目。

 トモナガがずっと待っていた「トモナガの球を受け止められる捕手」の登場で盛り上がるだけ盛り上がり、秋の新人戦では、

「スゴクね?」ヾ(゚◇゚)ノ
(アユム談)

な、結果を残すことになり……勿論、俺達は浮かれに浮かれた。
 トモナガとキミシマだけは終始厳しい顔をしていたが……その時は、あいつらは真面目だから喜ぶと言うことに不器用なのだな、とか何とか適当に自分で自分に理由をつけて納得しようとして、実際、納得していた為、余り深く物事を考えずにいた。
 第一、トモナガとキミシマが居れば、無敵だと思っていたのだ。

 キミシマの配球に、トモナガの直球があれば負けるコトはないと。
 
 野球は団体競技なのだから、皆で力を合わせれば必ず勝てると。

 だが……野球は、完全なる個人競技だと実感したのは、この夏。
 最後の夏だ。

 市大会や県大会なら、必ずミスが出るから、それをいかにカバーしあえるかというような、マイナスありきの試合が多かったような気がする。
 しかし……関東大会から、様相はガラリと変わり、マイナスがあれば即座に敗退と言う結果が待ち構えていた。どこのチームも個々のレベルが高いのだ。考えて見ればそうだ。投手や捕手のレベルがいかにずば抜けていようとも、それは投手と捕手だけを比較した場合にのみ言えることで、どんなにトモナガが優れていようとも、トモナガはマウンド以外に立つことはない。
 一塁には一塁の、二塁には二塁の、三塁には三塁を守備するものがいて、打席は必ず個人へ順番が巡る。
 誰かが誰かを補う余裕など無く、個々人の能力が高くないと一瞬で負けてしまうのだと、この夏……最後の夏に痛感した。

 友永を負けさせたのは、俺達だ。

 トモナガは本当に、俺達と一緒の野球で良かったんだろうか。
 
 この問いだけは、最後まで聞くことが出来なかった。嫌な夏の宿題が残る。ワタナベが夏の宿題を教えて貰っていると言う科学部の天才に聞けば、解決するだろうか。宿題を終わらせないとエゾケンがうるさいからな。今から、科学部へ行こう。トモナガが居るかも知れない、科学部へ。


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