SCHOOL*DIARY

ボブ的見解。
10月2日 16:40

担当:君島 航

遅刻:1人
早退:1人
欠席:0人

 まさか、放課後の教室でこの様な日誌を書くことになるとは思いませんでした。表紙を見ると、「1組学級日誌」と記してあるので、恐らく江添さんや志賀さんのクラスの学級日誌だと思います。
 本来なら、他のクラスの日誌へ書き込むのも……と躊躇したのですが、先日の境さんの日誌内容において、若干の補足説明箇所が見られたので、筆を執る事にしました。尚、このような言い回しをすると、必ずなっちゃんが

「なんで、筆じゃねーのに、筆をとるってゆーの??」
ヾ(゚◇゚)ノ

と、聞いてくるので困ります。
 そのなっちゃんは、今、いません。
 今日はなっちゃんが部室の鍵開け当番日なので、一番に部活へ行かなければならないからです。
 なっちゃんは、普段、自分の興味のあることにしか積極的に動こうとしませんし、また、物忘れも多い性格なので、宿題忘れなどもしょっちゅうあります。しかし、予め、後方黒板の連絡事項に書かれていた宿題などはノートに書き写して忘れたりはしませんし(なっちゃんが忘れるのは、突発的に口頭伝達された宿題等に限ります。よくよく、教師という職業の人間はさも名案を思いついたといわんばかりに授業終了間際、突然、課題を提示するので厄介です)、また、「自分の役目」と任じられているものは責任を持って行う人物です。
 幼馴染み、と言うことで彼を庇い立てるわけではなく、率直に愚直かつ真面目な人間だと思うので記しておきました。

 ただ……学力的な面に関して不安な点は多々あります。

 昨日も部活終了二時間経過した頃、なっちゃんは俺の部屋に居ました。
 茄子を収穫したと言うことでお裾分けだそうです。俺達の住んでいる大豊地区は大きな農家が多く、今でも物々交換が当たり前のように行われて居ます。
 なっちゃんが言うには

「ナスはねー、虫がつきやすいから、けっこー農薬使うんだぜー! だからね、フツーに売ってるキレーなナスは注意が必要★ でも、ウチのナスは無農薬だかんね! ちょっと、形は不ぞろいだけど味は美味いよ! 保証する!」

 だそうで。
 大豊では実際、小学校にも畑があり、秋になると芋掘り収穫祭や、稲刈りなどを行い、自分たちで焼き芋や炊飯をして食べる行事があります。なっちゃんちや大地君の家などは本当に大きな農家で、特に大地君の家の葱などは何かの賞を頂いたと茅市の広報や回覧版の農協便りに掲載されていました。大地君は昔から、葱が好きなので、とても誇らしかっただろうと思います。
 ただ……残念ながら我が家は農業を営んでおらず、庭に母のハーブ菜園がある程度で、パセリやルッコラ、バジリコにセージなどがとれますが、腹の足しにはなりません。なっちゃんは、

「でも、ハーブがあるかないかで、料理の味が変わるんだぞ! 見た目も違う!」

と、母のハーブを喜んでいましたが……本当かな。
 だからなのかはわかりませんが、母はなっちゃんに甘く、よくハーブティー用の茶葉をプレゼントしたり、なっちゃんちの野菜にハーブを添えてふるまったりします。
 昨日も、「夕飯? 食ってきたよ! つか、帰ったらソッコーでメシ!」と言うなっちゃんに無理やりハーブティーとハーブ入りクッキーを提供していました。

 なっちゃんは基本的に好き嫌いが無いので何でも美味しく食べます。

 だから……昨日も、菓子を食べたら帰るのかな……と思っていたのですが、中々帰ろうとしません。まだ、食べたりないのかな……と、考えていたところ、なっちゃんはナスを入れてきた紺色のビニールトートバッグから一冊の漢字ノートを取り出しました。

「あのねえ、ナスはコージツなの。オレねえ、ホントは航にベンキョー教わりにきたの」
(=´∇`=)ノシ

 まさか、なっちゃんの口から「勉強」と言う単語が自発的に出るとは思わなかったので、正直、驚きました。近くにいた妹が、

「なっちゃんも、お勉強? 私も今、ドリルが終わったのよ」

と、口を開くまで固まって居たほどです。
 母もなっちゃんを気に入って居ますが、妹もなっちゃんになついており(と、いうか、なっちゃんは無条件で年下に好かれる性分の様です)何時になっちゃんが君島家に居ようと特に違和を感じない様子。
 なっちゃんも午後八時を過ぎていると言うのに、妹と

「おー! ドリルおわったのか! すっげえなー!」

と、何が凄いのかよくわからない会話を繰り広げていました。
 とりあえず、何故、彼が突然、勉学に目覚めたのかわからず私室へ招き話を聞くと……なんでも、友永さんの進学先決定を小耳に挟んだことが原因だというのです。
 友永さんは去年から私立校のオファーを受けていましたが、全国大会出場を機に、更に彼を欲しがる名門校が続々と名乗りを上げ、全国津々浦々から推薦の話を貰うようになっていました。
 普通ならば、「友永さんは凄い」で終わる話なのですが、なっちゃんは職員室掃除をしながら、その話を聞き、1年後の自分を想像したのだそうです。

「もしかしたら、航は友永さんと同じ高校行くかも知れないなーって思って。でも、そしたら、オレ、どうすんのかなーって。航は頭イイから友永さんと同じ高校とかいけるかも知れねーけど、オレ、頭悪いからいっしょの高校行けないかもしんないって思ってね。江添さんが渡辺さんのコトで頭かかえてたみたいに、オレもオレの頭かかえちゃってさー! オレ、バカだからぜんぜん進路とか考えたコトなかったけど、航とまたいっしょに野球しよーって思ったら、おんなじ高校行かなきゃじゃん! って。そしたら、オレ、バカだから3年になってからジュケンベンキョーしたんじゃ間に合わなくね? っつーコトで、今日から始めるコトにしたの」

 だからって、なんで漢字ノートなのか分かりませんが……多分、彼の一番苦手な分野が漢字なのだと思います。何より、時折、問題文に掲載されている漢字……例えば「傍線部」の「傍」が読めずに泣きそうな顔を見せる始末ですから。
 
「でもねー、オレ、教科書開いてもねー、ドコからやればいいか全然わかんねーの! ビックリ! だから、航に教わりにきた!」

 そう、ニコニコしているなっちゃんを見ていたら、本当に……境さんの言葉じゃありませんが、大きなシベリアンハスキーに見えてきたから不思議です。しかも、上機嫌で尻尾を振って居るような。
 なので、仕方なし、教科書から次回の中間テストで選出されそうな範囲の漢字を指定して練習させることにしました。中間テストまで、約三週間ほどあります。まずは、その中間テストでの結果を見てから、今後の方針を図ろうと思いました。
 ただ……問題は……

「なっちゃん! いらっしゃい! ナニナニ!? 航と二人で何してたの〜??」

と、姉になっちゃんの存在を気付かれてしまったコトです。
 勿論、なっちゃんは嘘のつけないバカ正直な性格なので、

「ベンキョー! 航に教わんの!」

と、率直に答えていました。その回答は、姉を喜ばせる材料になります。

「勉強! なっちゃん、エライねー! なに? まだ、中間まで時間あるよね?」
「お姉ちゃん、さっさと部屋にもどっ、」
「違うー! オレ、バカだから今からジュケンベンキョー! 航と同じトコ、行くかんね!」
「いや、そうじゃなくて、中間の、」
「そうなのー! 航と同じ高校に行くのー! も、私、全力で応援するわ!」
「ホント!?」
「ほんと、ほんと! なっちゃんは航とずっと仲良しでいてほしいと思うワケ!」




 や め て く れ 。





 ……lli||il_| ̄|●iil||i|l



 
 なっちゃんは……うちの母や妹に好かれているばかりでなく……姉にも好かれて居ます。それは、もう、凄く、凄く。

 初めは、単純になっちゃんの愛想が良いからなのかな、と思いました。でも、うちに遊びにくるなっちゃんを迎える素振りや、なっちゃんが来ると外出を取りやめる姉を見ているうちに、何か特別な事情があるに違いないと気付きました。
 それが……それが、まさか……





 姉の性癖だっただなんて!
Σ( ̄□ ̄;;;)!!



 もう……衝撃を通り越して絶望です。
 姉は現在、大学に通って居るのですが……「年下のオトコノコ」が好みと言うのではなく、「年下のオトコノコ同士が一緒に居る」、と言うのが好みなのです。
 初めは、なんで女子なのに少年誌を読むのかな、と思っていました。次第に、家にはコミックスが増えて……それは、まあ、俺も読めるので嬉しかったのですが……そのコミックスの判型が大きくなりだした辺りから、少し不思議な行動を見せ始めました。
 その大きなコミックスの表紙は、自分のよく知る漫画のキャラクターが描かれていたのですが、どうにも少し、違うのです。少女漫画の様にデフォルメされていて、幼心に

「描いてる漫画家がかわったのかな?」

と、思い、読んで見ると…………でした。
 余り、詳細を書きたく無いので伏せますが、驚愕に値する内容でした。それがいわゆる同人誌アンソロジーといわれるものだと知るまで、原作がおかしくなってしまったのだと、誰も知らない秘密の展開を、どうすればいいのか分からず慌てふためいたことを今でも覚えて居ます。
 そして、姉は年に数回、都内へ赴いては薄い本を購入してくるようになり、なっちゃんが来るたびに、物凄くはしゃぐようになりました。
 
 こういうとき、なっちゃんがバカで本当に良かったと思います。

 姉の言葉を借りると、なっちゃんは「ワンコ攻め」なんだそうです。
 きっと、シベリアンハスキーに似ているからだと思います。
 なっちゃんは小学生の頃から大きい方でしたが、今では、175センチを越えました(でも、まだ、大地くんやロシアくんなど、大きい生徒がいるので凄いと思いますが)。そして、クラスの女子が騒ぐ通り「黙っていれば、キューキョクにカッコウイイ」と思います。流石に、三年の先輩などに比べるとなっちゃんは全くオシャレというものに興味がないため、ボサボサの髪や伸ばしたままの眉、肌には時々ニキビがあって、近寄ったとき、泥の臭いがして……よく、噂される小坂部先輩や今川先輩、それに染谷先輩、久米先輩、芹沢先輩などの足元にも及びません。
 しかし、「タラシ王子」「天然王子」「眼鏡王子」「和風皇子」「不良王子」(とは、女子がつけた通称で、俺がつけたわけではありません。念のため)に「大型犬」はいないそうで……ソコが「萌える」と……クラスの女子が……段々、憂鬱になってきました。

 一番、憂鬱なのは、そういった女子の会話が全部分かる自分です。
 友永さんレベルになってくると、

「なんかさー、も、あそこまでくると相手がいないってゆーか、モーソーで犯しちゃいけないってゆーか!」
(*´艸`)

が、女子の回答で……江添さんとは、色々な意味でカップリング(ってゆうんです、組み合わせのコト)がアリエナイみたいです。
 悔しいのは……俺の場合、「妄想で犯される」(漢字で書くとリアルだな)に値する人間であり、尚且つ、「受け」ということです!

 なんで……「攻め」じゃないんだろう……。

 もう、それが一番の悲劇であり、しかも相手がなっちゃん! 姉と同じコトを、まさかクラスの女子から噂されるとは思いませんでした。
 境さんは、きっと世に溢れるBLの中身がどのようなものなのか知らないので、冗談で「ユニフォームを欲しがる男」の話を江添さんに振ろうと考えているのだと思うのですが……、実際、襲われる男の気分、ようするに女性の気分というものを考えて見ると、様々な恐怖が分かると思います。
 その点では、男子がBL知識を持つと、いかに自分たちの欲望が女性にとって恐怖なのかが実感できるのではないか、と。コンビニなどに置いてある、成人向け雑誌の表紙を見て、怒らない女性は本当に凄いと思います。

 もしかしたら、そこまでして女性を欲しがる男を、女子は哀れんで居るのかも知れませんが。
 
 きっと、体格的な面からして男性に敵わない女性が、せめてもの仕返しに考え出したのがBLなんだと思います。そう思わないと、ちょっと男の俺からすると、姉を初め、そういう世界を好きな女子と、どう接すればいいのか分からないからです。

 でも……境さんも述べていましたが、なんで野球部なんでしょう? 姉も野球部に萌えておりましたが、本当に姉や他の女子が好むキラキラした男子は、(少なくとも茅中野球部には)いないと思うんですけど……まあ、友永さんは、別の意味でキラキラしてますが……。
 団結力とか、男の友情、みたいなものが良いんでしょうか? 
 女子の気持ちは良く分かりません。

 何より、やはり、個人的に俺が受けって言うのがどうしても……納得いきません。

 流石に、このような内容のものを私室で記すわけには行かず、今もこうして放課後の教室で書いているわけなんですけれども。
 実際、男の俺からすれば、女子の求める受けって言うのは、もっとこう……華奢な……えっと……誰だろう……ウチのクラスで言うと……津吹くん? ああ、そうだ、津吹君! 彼のような存在が適していると思うのだけれど、なぜ、違うのでしょう。
 「暗い」とか「しゃべんねえ」って、女子は彼を非難しているようですが、俺から見れば、あの女子の勢いに対抗できる男子の方が難しいと言うか……寧ろ、津吹くんの場合、クラスの女子の誰よりも、か弱いから駄目なのかな……。
 あの細さや儚さ(で、いいのかな?)を持った女子は滅多にいませんから……流石に、半年も同じクラスに居ると慣れましたが、本当に朝礼や体育で倒れる人間がいるなんて思いもよりませんでしたしね。
 事実、今日も体調を崩してましたし……って、あれ? 廊下から津吹くんの声が聞こえる。保健室から戻ったのでしょうか……? 誰かと話しているようです。
 相手は……誰だろう……先輩、かな? 揉めているみたいだけれど……え?……えええええええ!? ど、どうしよう!!! 俺、今、教室に居ますって音を立てた方が良いのかな!? それとも、隠れるべき!? うわ、うわ……なっちゃーん!!!
アワワ ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿 アワワ



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