SCHOOL*DIARY

冬。
12月12日 18:59

担当:倉賀野蔵人
 
遅刻:ちこく。
早退:そうたい。
欠席:けっせき。

 寒い日が続いている。
 冬で一番困るのが、乾燥だ。
 俺の頭には髪がないので、顔どころではなく、頭全体が乾燥する。
 以前、髪をすべて落としたのも冬だったが……確か、クラスの女子に

「寝癖ついてるよ」

と、言われたのがきっかけだったと思う。
 言われたときは、「そうか」くらいにしか思わなかったし、事実、周りの男子も寝癖をつけて登校している者が多かったため、さほど重要にはうけとめていなかったのだが……どうも、他の男子とは対応が違うのだ。
 確かに、自分でも不思議な寝癖がつくものだと思ったが、当時、俺の頭についた寝癖は、こう……双葉が頭部より芽生える感じで……何かのキャラクターのようにも感じたが、しかし、他にもパイナップルのような髪で登校しているものもいるし、と直さずにいたのだが……なぜか、俺の寝癖は許されないらしい。
 
 どうにも、爆笑されてしまうのだ。

 他のものは笑われないのになぜか、と聞くと

「いや、顔が怖いから」

と、返された。
 顔に髪は関係ないだろう! と、思うのだが違うらしい。中には、俺の座高が高いことを揶揄するのか、

「先生! 倉賀野君の寝癖がじゃまで黒板が見えませーん!」

と、授業中に発言するものまで現れた。
 仕方なし、なるべく直してから登校するように心がけていたのだが、髪を整えるというのは考えていたよりも時間が掛かる。だが、早起きして寝癖を直すよりも、なるべくギリギリまで寝ていたい。特に寒い朝なら、なおさらだ。
 よって、髪がなければ寝癖がつかない! と、考えスキンヘッドにしてみたのだが、これがまた、大変だった。
 何しろ、地肌がむきだしなので、乾燥するとアカギレのように肌が傷むのだ。仕方なし、乾燥しないように油でも塗ればよいのだろう、と台所にあったオリーブオイルを塗ってみたところ、乾燥は防げたが、

「パスタくせえぞ!」

と、不評だった。しかも、髪がなくなると寒い。夏は暑い。直射日光は辛い。
 更に、俺としては考えた末の決断だったが、周囲からは、

「なんで、ハゲにしたん!?」

との質問が凄かった。
 髪を切る前に予告する男子など少ないと思うし、そもそも、みんなに寝癖のことを言われたから切るにいたったのだが、どうも理解してもえらず、さまざまな噂がたってしまった。一部では

「毛シラミが……」

と、心配されたようなのだが……個人的に、そこまで不潔な印象を与えていたのだろうか、と少々落ち込んだ。
 だが、朝は父の電気シェーバーで剃れば良いだけの髪なので、ゆっくり寝ることができて嬉しい。時折、頭を剃っても、ヒゲを剃り忘れてしまうことがあるのだが、それくらいは許してもらいたい。一時期は、ヒゲを剃るのも面倒で、真岡さんのように無精ヒゲと言うのも良いと思い伸ばしていた時があったのだが、なぜか茅の……津吹といっただろうか……が、珍しく話しかけて来たかと思えば、

「タークスのルードのようですね」

と、嬉しそうに言われた。
 タークスのルードというものを俺は全く知らないので、新町さんたちに話したところ大笑いされてしまった。

「激似!」

らしいのだが……どうやら、サングラスというアイテムも相乗効果を与えているらしい。
 そもそも、サングラスを掛け出したのも、目が合うのがイヤで、なのだが……掛けてからは、目が合うことはなくなったが、見られることは増えたような気がする。しかし、見られるだけで話しかけられさえしなければ、別段、困ることはないので良い効果だと思う。
 俺は、どうも話すことが苦手で……文章ならば、自分のペースでつづるだけなので困ることはないが、会話となると相手が居る分、マイペースに事を進めるわけにはいかない。
 だから……会話をせずに済むだろう、と入部した吹奏楽部も、確かに会話は比較的せずに済んだのだが、やはり団体で何かをするにはペースを周囲にあわせなくてはならず……どうにも、こう、タイミングを上手くはかることができずにいた。
 どうしても、半拍遅れてしまうのだ。

「1.2.3♪」

 で、開始すべきところを、なぜか、

「1・2の3♪」」

と、してしまい、ずれる。結果、迷惑がかかり……色々と上手く行かないこともあり、段々とストレスが溜まりはじめた。教室の机が、自分の身体にあわないことも重ねて、どこか、人目につかず、身体を動かせる場所はないものか……と探したところ、ゲームセンターが良いと教えてもらった。
 しかも、夕刻過ぎのゲームセンターは小さい子供もおらず、空いているらしい。だが、地元というか、学区内のゲームセンターは夕刻になると学生に対する規制の厳しくなるところが多く、また、設置してある遊具もストレス発散とはほど遠いものばかりで、特に小学生が夢中になっている音ゲーと呼ばれる音楽系のゲームは、吹奏楽部員とは云え、半拍遅れるリズム感のない自分にはとうてい、出来たものではない。

 さらに、小学生以下の子供はスキンヘッドが好きらしく、触られて非常に困る。

 仕方なし、駅前のゲームセンターまできたところ……そこで、初めてスキンヘッドであることへ感謝したくなる事態に遭遇した。

「凄いハゲだね! ねえ、触らせてよ!」
 
 と、面と向かってハゲということにも驚いたが、こちらが答える前に触ってくる行為にはもっと驚いた。大概にしてカタカナの呼称(ハゲとかデブとかチビとかブスとか)は、どうにも相手を馬鹿にしているとしか思えないものが多いのだが、俺はこの日、呼ばれた「ハゲ」という呼称ほど可愛らしいものはなかったように感じる。
 堂々と俺をハゲと呼ぶ……名前を告げても暫くハゲと呼ばれていたが……まあ、今は「クロード」とやはりカタカナっぽく俺を呼ぶ彼女は水沢さんといい、制服からして茅南中の生徒らしい。

「ねえ、なんでハゲなの?」
「ねえ、夜にサングラスって意味なくない?」
「ねえ、後頭部に落書きしていい?」

と、非常に可愛らしいことばかりを質問してくる水沢さんは、いつもゲームセンターに居るそうで。
 段々と、俺はゲームセンターへ通うことが楽しくなってきた。

 その水沢さんは、美人と言う言葉では追いつかないほどの美人だ。
 
 司馬中には現在、芸能界で女優業をしている先輩がいたのだが比較にならない。何もかもが通常と一線を画している。気付けば、ゲームセンターに集うものの殆どが明らかに水沢さんを目当てとしているものばかりだと気付く。だが、自分も周囲と変わりないことにどうにも気分の悪さを感じ、しかし、言葉にできないもどかしさから仕方なしに興じたパンチングマシーンにて、記録上位者全てに自分のスコアが刻まれたある日、店員の長谷さんに話かけられた。
 今までも男性に声を掛けられることは多々あり、特に、私服で佇んでいると、全く面識のない中年男性に、

「お前さん、どこの組のもんだ」

と、話しかけられたものだ。正直にクラスを答えると、大概、

「三組? あれか? 三下扱いでもされてるっていうんか? だったら、ウチへ来い」

と、名刺を渡されるのだが、まだ、就職活動をするには早く、できれば進学希望なので、一度も名刺に記載された場所を訪ねたことはないのだが。
 恐らく、長谷さんも似たようなことを尋ねるのだろうと思えば、やはり勧誘で。ただ、他の中年男性と違うところは、

「僕たちと一緒に、ボランティア活動をしてみないか?」

と、いう活動内容だった。

「でも……俺、話す、の、に……苦手、で……」

と、答えれば、即座に、

「大丈夫! 会話なんて滅多にないよ! ボディランゲージでどうとてもなる活動だから! 主な内容は、街の美化活動だし」

と、説明されて……清掃活動のことかな、と考えていると、

「ソコにいる水沢も入ってるぜー」

と、当時は天然パーマの人、くらいの認識しかなかった佐倉さんが貴重な情報を教えてくれた。
 聞いた瞬間、水沢さんと一緒に美化活動! と、心が跳ね、あの水沢さんが活動するのだ、それは美しい街になるだろう、と、即座にボランティアグループへの参加を決めた。
 
 そして……まあ、今に至るわけなんだが、その一件以来、どうも俺は長谷さんが信用できずにいる。勿論、一緒にいる佐倉さんも同様だ。
 だから、

「なあ〜……本当に、何度も言うけどさー、水沢は男なんだって!」

と、言われようと、嘘だと思うことに決めている。どうせつくなら、もっと上手い嘘にすればいいものを、ずっと、「水沢さんは男だ」の一点張りだ。誰がどうみても、女の子なのに、それを男呼ばわりするのはどうかと思う。
 現に、水沢さんはセーラー服を着ているし、男の自分と比較しても共通するところが見当たらない。偶に、

「見る? 別に減るもんじゃないし」

と、水沢さんはセーラー服を脱ごうとすることがあるが……もう、その時、ばかりは必死で止めるしかない。非常に嬉しいことだと思うが、自分の理性を保てる自信がまだ、ないからだ。
 時折、その調子で水沢さんが他の男の前で脱いでしまったら……と考えると気が気でないので、なるべく考えないようにしているのだが、小笠原さんが言うには、水沢さんは非常に好き嫌いの激しい人で、誰彼構わず脱ぐ、という行動はしないらしい。

「シンちゃんはねぇ、気に入った人にしか話しかけないのよぉ♪」

 この、小笠原さんの言うことが本当だとしたならば、俺は嫌われていないことになる。寧ろ、好かれていると自惚れても良いだろうか。流石に、城主や総長らへの懐き方をみていると、敵わないと感じるところもあるが、一般男子と比較すれば良い方だろう。
 目下、気になることと言えば先日、新しく入隊した茅南支部の男と水沢さんの関係だ。とても、仲が良いように思えてならないのだが、そこを小笠原さんに聞いてみても、

「うふふ〜♪ 内緒〜♪」

と、答えられるだけで謎は深まるばかりである。

「だから、ねぇ〜♪ 私、クラポンの頭が寒いと思って、素敵なお帽子を編んで差し上げましたのよ! クラポンだから、クラゲさんのニットキャップですの。とても、お似合いになると思いますし、きっとシンちゃんからの好感度も上昇すると思うのですけれど、如何かしら?」

 そう、言って渡されたニットキャップが手元にあるのだが……被るべきか、否か。小笠原さんの言葉は全て信じたいが、しかし、クラゲ帽子はどうだろう。色は、司馬カラーの赤なので、被りようによればサンタさんに思えなくも……ないな。絶対に、ない。それよりも先ずは、水沢さんがクラゲ好きか否かを確かめてからにしようと思う。



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