昼下がりの公園 
親子連れや散歩の人々が行き交うなか、不釣り合いなもの....いや、屋台があった。
昼日中からおでんの屋台。寒い内なら昼間でも売れようが、季節は春の日差しも麗らかなこの時期、人が寄り付く筈もない。

屋台の店主はそんな事などお構い無しに、のんびりと新聞を読んでいた。
しかし   ーそんな店主が嘗てラストニンジャと呼ばれた伊賀崎好天その人だと知るものは誰一人いない。
「ふむ...今日も今日とて、客は来んか。」
趣味で屋台を出しているので、売り上げ等はどうでも良かったが、折角出しているので1人位は物好きがおっても良かろうにのぅ...。そう思っていた時だった。

ゴロゴロゴロゴロ...

遠くから雷の音。

「やれやれ、最近は天気予報の精度も上がったと思っておったが、ゲリラ豪雨までは予想がつかなんだか...」
見れば人々も足早に逃げて行く。

早々に店じまいを始めた時だった。

カッ!!ドーン!!

何処か近くに落ちたようだった。

「おお、くわばらくわばら。ハリーアップじゃな」
 ーそう呟いた時だった。

ふと見上げた先に妙に見覚えのある男が立っていた。初老の紳士といった風情の男は屋台に近づきながら、こう言った。
「やぁやぁ、天下のラストニンジャ殿がここで屋台をしておられるとは」
その声、その顔を見た好天は少し嫌そうな、しかし久しぶりの旧友の来訪に相好を崩した。
「なんじゃお主か...三郎兵衛。現れる時に一々、雷を鳴らすな!」
「会うて早々に文句ですかな?いやはや...相変わらず手厳しい」
袋 三郎兵衛 嘗ては天道無人の下、七人の仲間と共に悪の軍団を倒した強者にして、好天の友人である。
「何しに来たんじゃ?わしは忙しいんじゃ」
「野暮用で近くに寄りましてな。そうすると近くに妙なじいさんがおでんの屋台を出しておると聞き、もしやと思い」
「誰が妙なじいさんじゃ!?大体お主のほうが余程妙なオッサンではないか!この悪人面めが!」
悪人面と言われた三郎兵衛はムッとする。
「悪人面とは酷い言われよう!このダリも真っ青なカイゼル髭は私のチャームポイントですぞ!?」
「それが余計に悪人風じゃと言うんじゃ!...全く、茶々を入れに来ただけなら早々に帰れ」
憎まれ口を叩きながらも好天は畳み掛けた屋台を広げはじめた。

それから小一時間ほど後―

「懐かしいのぅ、大介は達者にしておるか?」
「立派に天道流を継いでくれましたわい。これで御家も安泰、お子もすくすく育っておりますわ」
「そうか、そうか」
酒を酌み交わす二人の姿があった。

「それにしても...好天殿が忍風館の未熟者達に力を貸しておった時は驚きましたぞ」
「あれは、おぼろに頼まれたんじゃ。正体を明かす訳にはいかぬ故に色々姿を変えておったがな」
「声を掛けて貰えば、うちの若いのをお貸ししましたのに」
「あのときは霞一鬼の息子達もおったでな...道を示す意味でも、わしがやるしかなかった」
昔話を弾ませていたが、好天がこう切り出した。
「さて...お主がここに来た本当の理由はなんじゃ?」