「野坂」
「はい」
「こういう子供、テレビでホームビデオ特集とかやってるときに見たことないか」
「そう言われれば既視感があります」
野坂の隣で舟を漕ぐ彼女の手には、しっかりと箸が握られている。うつらうつらとしながらも、朝食は最後まで食べようとする意志はしっかりと見られるのが素晴らしい。
その人が卒業式なんぞに顔を出す性格ではないことは知っている。地上5階、情報センターの窓から黒山の人だかりを見下ろせば、宙に舞う卒業生がちらほらと。
サークルなどに属さないオレには特別送り出す存在もなく、今日もいつものように解放されている情報センターの自習室スタッフとしてアルバイトをしている。
こんな日に利用者などあるものかと思いつつ、もしもに備えること。これだけ学生がいれば、1人や2人くらい何かを思い立つ者がおらんとも限らん。
「お疲れさまですー」
「川北」
「ふいー、人が多くて疲れますねー」
「サークルの方はいいのか」
「はい、一段落しました。飲み会は夜からなのでそれまでここでヒマ潰しでもしようかなーと」