「コシ、こっしー」
「ゆーへーい」
俺は、この絶望的状況下での四面楚歌を回避するために連れて来られた置物だと察する。もちろん、俺が場の空気をどうこう出来るはずもなく、呑まれないようちびちびとビールを飲み、青ざめていくその人を見守るしか出来ない。
「ゴティ、どうしたらええんかな」
「しばし様子見じゃね? 冷静な判断出来るの多分俺とヒロだけだし」
ファンフェスん時からちょっときな臭いとは思ってたけど、ここまで来るとガチな地雷ってヤツなんかなー。俺たち対策委員の置かれた状況を、一歩引いて見てみる。やっぱり、異質だ。
これが定例会なら、インターフェイスに加盟してる人なら誰でも会議を見に来ていいってことになってるからわかる。だけどここは対策委員だ。講師候補でもなく、前対策委員でもない三井サンがいるってーのはちょっとおかしい。
三人娘は見るからにイライラしてるし、特に短気な果林とつばめはいつ大爆発してもおかしくない。ツカサは女子に怯えてる。野坂はこの人をくっつけたまま会議に来てしまったことに対する罪悪感か、顔が青白い。ヒロは普段通り。
「やーあみんなおはよう! おはよう、やあおはよう!」
サークル室に来るなりやたらテンションが高い三井にはきっと触れるべきではないんだろうね。そもそも、普通のテンションの時でさえも基本的に触れたくないんだから、今が地雷なのは明白だよね。
「やあ野坂」
「おはようございます」
「……それだけ?」
「他に何が」
「今日が何の日か知ってる?」
「えー……と。ちょっと調べますね」
「今日は何の日サイトには書いてないよ〜、あっ、そうかゴメン、野坂なりの演出だったんだ、ゴメンね気付かなくって。僕は知ってて知らない振りをしなきゃいけなかったんだよねゴメンゴメン」
「はあ」
「ぎにゃああああ」
「深谷さん、これは画像ですし、ヘビではなく植物です」
またやってる。これが実苑とマミさんのいつものやり取り。
淡々と話すこのちっこい男子、浦和実苑はオカルトとかに興味がある1年で、アタシの同期。得意なのは立体作品で、石膏とか紙粘土、針金なんかをいつもぐにゃぐにゃこねこねと扱っている。ちなみにヘビが好き。
ひいいと部室の隅っこで震えてるのが、深谷真実さん。ネコ好きが高じて仲良くなった2年生の先輩。得意なのは風景画。画材は多岐に富んで、油絵や水彩、色鉛筆などをそのときの気分で変えている。ちなみにヘビが大嫌い。
「ひゃっほーい」
「みんなー、元気ー?」
そのお二方がサークル室に姿を見せた瞬間、空気が一瞬にして変わった。
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かお前はー!」
「麻里さんはどうぞゆっくりしていってください」
「圭斗さんありがと」