「おい、極悪非道のリン様」
「何ですか、私利私欲の春山さん」
「たった3日だぞ、たった3日休暇を申請しただけでどうしてペナルティなんだ」
「その休暇の取り方が唐突なのと、理由が冠婚葬祭や帰省などでなく映画を見るためだけの休暇申請だったからです」
「バイトリーダーは私だぞ。何でお前が私に罰を科す」
「バイトリーダーがそれでは示しがつかん。身を削れ」
「毎日働けというのか!」
「レイトショーなどではやっとらんのか。ただでさえ人もおらんこの時期にだな」
「うう〜」
「伏見、箸が進んでないぞ」
「あざがぐうううん」
微妙な色の空の下、今日はゼミのバーベキュー。お肉の焼ける匂いはおいしそうだし、たまのバーベキューはすっごく楽しいよ! でも、こんなところでメールチェックをしたのがダメだった〜。
映研の監督先輩から来ていたメールを見た瞬間、お腹がキリキリしてきた。実際にお腹が痛いとかっていうより多分気持ちの問題だと思う。急にどすんって肩から何かが乗っかってきたような、そんな感じ。
夕立などという趣のある響きでは済まない大雨を、ゲリラ豪雨と呼ぶようになって久しい。警戒水域を超えただの床上浸水がどうしたなどとメールが入るということもなくはない。
年に一度か二度は星港市もこのような豪雨に見舞われ、どこのビルが浸かったとか、地下鉄が止まっただのと全国ニュースでも報道される事態。台風などが近付くと、休講にならんものかと淡い期待を抱くこともある。尤も、今は夏季休業中だが。
「一雨きそうだな」
「台風が、増えた……」
「そうだな。今年は台風の発生が遅かったそうだが、ここにきてラッシュか。このまま最盛期に突入すれば、何度ここに足止めを食らうかわからんな。食料と飲料水の確保は済ませとかんとな」
「野坂先輩はミキサーなのにどうしてそんなに番組に対する考え方がしっかりしてるですか」
マリンからの突然の質問には、どう答えたらいいか迷った。俺は番組に対する向き合い方にアナウンサーもミキサーも関係ないと思っている。番組に対する考え方がしっかりしているというのはともかく、それに「どうして」と聞かれると。
ただ、その質問に対して脊髄反射的に当たり前じゃないかと答えることも出来ないでいた。学校が違えば事情も違う。ましてマリンはステージメインの星ヶ丘大学に属していて、何もかもが向島と比べることは出来ないのだ。
少し遠巻きに見える外では、カラフルなビニール傘が通りを横切って行った。あれはもしかしなくても菜月先輩だ。赤と青、それと透明の3色構成だけに、メガネをかけなくてもわかるのがありがたい(ヘッドホンも然りで菜月先輩はわかりやすい)。
掲示板の用事は終わった。改めて外をちゃんと見ればアスファルトには激しく雨が打ち付けている。だけど俺は靴が濡れるのも気にせずウキウキでその傘を追う。
「菜月先ぱ」