公式学年+1年
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「さ、今日もおしまーい。桃華帰ろー」
「千葉君、お菓子でもつまんで行かない?」
「げっ」
ヒゲはきっと喋り相手が欲しかったんだと思う。アタシと桃華、それと小田ちゃんが捕まってしまった。卒論発表合宿、つまりゼミ合宿が近付いている今日この頃。来年度のことも考えて行かなきゃね〜とはよく言っている。
ゼミ室に置いているカップ麺の備蓄がなくなった。しばらくジャガイモを加工した料理ばかりを食べていたからその存在を忘れかけていたが、たまには麺類を、と思って箱を覗いて底が見えていることに気付く。
ちょうどヒマだったオレと美奈、そして石川の3人で買い出しに出る。カップ麺の買い出しで足をのばすのは、近くにあるスーパーセンターだ。食料だけでなくホームセンターで買うような物も揃えることが出来るために便利なのだ。
「おお、すごいことになっているな」
「お買い得……」
駐車場の一角に、テントが立てられていた。その下に積み上げられているのは段ボール箱。何らかの催し物らしい。少し覗いてみると、赤いきつねと緑のたぬきのケースが山積みになっている。他には、お茶やスポーツドリンク、ティッシュに玉ねぎ。
「朝霞クーン、そんなところに頭突っ込んでたら取れなくなっちゃうよ〜」
「もうちょっと! ここから声がしたんだって」
「ねえ朝霞クーン、かくれんぼしてるんじゃないんだから〜」
「おーい、にゃーん! にゃー、にゃーん」
星ヶ丘大学の周りには坂が多い。その坂の中にぽつぽつとコインパーキングめいた駐車場があって、草っぱらとか竹林だとか、ちょっとした溝がある。朝霞クンがさっきから何をしているのかと言えば、猫探し。
小さくて、すごくかわいいのがいた! そう言って、子猫を探し回ること早30分。俺たちを警戒して今日はもう出てこないんじゃないかなあと思うけど、にゃーにゃー言いながら子猫を呼ぶ朝霞クンがかわいいので言わない。
「高木ー、ちょっと頼みがあるんだっていう」
「あっ、俺もエイジに頼みたいことがあったんだ」
いつものように俺の部屋でご飯を食べようとしていたときのこと。唐突にエイジが話を切り出してくる。頼みごとという単語に、俺もダメ元で頼んでみたいことがあったのを思い出す。
「それで、エイジの頼みって?」
「それな。テスト期間中はここに住まわしてくんねーか。いつ寒波が来て家から出れなくなるかって考えたら保険をかけときたいっつーか」
「バレンタインは勝負に出ます!」
いつになく強気ね、とベティさんが目を丸くしている。立ち上がり、こう宣言するのは伏見あずさ。彼女とはこの店で知り合った。ベティさん……それから、大石君とは幼なじみ。共通の友人がいるということで、距離が縮まっていた。
バレンタインが近付いている。確かに、好きな人がいるのなら勝負に出るにはいい日なのかもしれない。そうすると、私はどうしようというところにたどり着く。今年のバレンタインは火曜日らしい。
「イブは散々だったものね」
「あずさ……イブは、デートを?」