「あー、どうする」
「どうしましょうねえ」
そろそろ話し合わなければならないのは、ゴールデンウィークにある文化会発表会について。美術部では個人で作品を制作して展示しているのだけど、場所やなんかの兼ね合いである程度の話し合いは必要になってくる。
文化会発表会というのは、緑ヶ丘大学の文化部が勢揃いして活動の成果を発表するという、そのままの会。部活が多いから2〜3日にわたって行われる。美術部は大体作品を作って当日は見てるような感じ。
「あっ、大石クンだー。元気ー?」
「元気だよー。久し振りー」
久々に星港のど真ん中に立ち寄ると、懐かしい顔に出くわす。インターフェイスの定例会で月に1度は会っていたけれど、それがなくなればご無沙汰。
目についたカフェに入ると、観葉植物が多い。席が人目に付きにくいという印象。プライベートな空間みたいになってて、ゆっくりするのに良さそう。
アタシはカフェラテ、大石クンはココアで一息。互いの近況や、就活についての話がメインになっていた。他に共通の話題があるというワケでもないし、定例会時代からそこまで深くは突っ込んでこなかったから。
街でばったり出会った彼女の手には、大柄な荷物。そして、俺の手にも同等の荷物があった。見る人間が見れば、ショップ袋など名刺代わり。互いに薄々察してはいたけど決して深く踏み込むことのなかった領域を、意図せず曝け出している。
恐らくは同人誌やグッズを大量に買ったと思われる福島さんと、同人誌やゲームを買い漁った俺。互いに見て見ぬ振りをすればよかったのかもしれない。だけど、気付いた時には手遅れだったのだ。
「まさか同じカードに手が伸びるとは」
「互いに提げてる袋が決定的すぎたよね」
「別に隠してるワケでもないけどあまり大っぴらにはなってないみたいで」
「アタシも青女ではオタク扱いだけど、インターフェイスに出るとそうでもないから加減が難しくって」
西京での会社説明会に参加した後、14歳までいた家に立ち寄ることにしていた。理由は、“父”への挨拶。親の離婚で連れ去られるように向島に来て以来、会ったこともなかった父。大学に行かせてくれているのは父だから、そのお礼も兼ねて。
父は少し年を取ったように見えるけれど、大きく変わったようには見えない。家も変わりないし。私の部屋だったところもそのままなんだそう。だけど、それは私が死んだみたいだから片付けてほしいと伝えた。
「ただいまー」
ひょっこりと顔を見せたのは、同じ年頃の男。もしかしなくても、彼が後妻の子。嫌なタイミング。前妻の、それも父とは血の繋がらない子が家に上がり込んでるなんていい気はしないわよね。
「わ、わーっ! ウソですよね!」
『すまんが、判定をもらった以上は水曜まで出て来れん。月曜と火曜を何とか堪えてくれ』
「わかりましたー……」
来週月曜からは、情報センターは利用者ラッシュに見舞われる。健康診断と履修登録があるからだ。普段の情報センターは文系の利用者が主だけど、履修登録は文理問わず全学部の学生が押し寄せる。
そんな嵐のようなときに林原さん離脱という絶望的な状況。インフルエンザはまだまだすぐそばにある脅威であると再認識。繁忙期に林原さん抜きというのがどれくらいアレかと言えば、肉のないハンバーグプレート、魚のない焼き魚定食って感じ。