あやめから指定された時間、場所に向かうと、少し見ない間にカッコいいことになっていた。燦然と輝く青い機体、そして新品同然のヘルメット。
「あやめ、お前原付買ったのか」
「バイクの免許を取ったんです。なので本当は中型のバイクまでなら乗れるんですけど、維持費とかその他もろもろを考えて原付二種にしました」
原付二種と言えば、俺の近場なら戸田が乗っている。普通の原付よりもパワーがあるし、二人乗りも出来る。それに段階付き右折もない。二種に乗るとただの原付には乗れないと戸田は言う。
あやめがバイクの免許を取り、原付を買ったときにはかんなもそれはもう驚いたらしい。ただ生活をするなら部屋の近くで何でも揃うし、足は特別必要になるものでもない。またどうして二輪だったのかと。
丸の池ステージまでもうあまり日がない。今日は、大学の野外公会堂を借りて行われるリハーサル。大道具も搬入して、本番に近い環境で行われる練習だ。機材の上にはテントも張っていて、結構大掛かり。
「スガー! 準備できたぞー!」
「ああ。後はうちの班の番がくるまで段取りの確認とかを頼む。暑いし、出来るだけ影を見つけて休んでてくれ。俺は班長の仕事があるから後で合流する」
「了解〜!」
ステージの脇の方では、個別に張ったと思われるテントの下で部長が悠々とキャンピングチェアーに腰掛けていた。わざわざ電ドラで電源まで引っ張ってきて、扇風機が回っている。
部長とは言え、いい身分だ。扇風機は部長よりも機材を冷やすために使うべきじゃないかと思ったりもする。星港市の予想最高気温は36度。影もないここでは体感温度はもっと上がるだろう。