バイト先で妙な打楽器特化バンドを組むことになって、何となく形になり始めてしまっていることや、自分たちのバンドのことなんかを話す昼休み。
季節問わず寒いことで悪名高い星ヶ丘大学の食堂は今も例に漏れず寒く、回転率こそ高いものの、昼休みともなれば思うように座れなくなる。2限から陣取ってた俺らの勝利だ。
「あ」
「あ。菅野さんこんにちはです。席ないので相席いいですか」
「俺はいいけど、カン、お前は」
「別にいいですよー」
「お邪魔しますです」
「ふっ、ふっ、ふぅうううーっ」
「な、菜月先輩……一体何を…?」
「ふっ、ふっ、ふぅうううーっ」
サークル室に入って目に飛び込んで来たのは、お腹に手を当てて謎の呼吸法をしている菜月先輩。強く短く息を2回吐き、強く長く吐けるだけ息を吐くのを繰り返している。はっきり言えば異質だ。
「あの、菜月先輩!」
「ああ、ノサカか。いや、その……去年のスカートが、ちょっと。ふぅうううーっ」
「うーい、カナコー、コーヒー淹れてくれー」
「ふう。しばし休憩だ。ああ、綾瀬、湯を沸かすならオレのミルクティーを淹れられるだけの分量をだな」
「はーい、ただいまー。……っと」
お湯を沸かそうとカナコさんが立ち上がった瞬間。足がもつれ、ふらりと身体が崩れる。林原さんが咄嗟に手を差し出してくれたからそのままバターンとは行かなかったけど、よく見ると顔色が悪いし表情もちょっとしんどそうだ。
「えっ、圭斗さん彼女が出来てていつの間にか別れてたの!?」
「ええ、価値観の違いというヤツでしょうか」
ムラマリさんと圭斗とうちの4人でファミレスでの食事会。うちは、いつしか薬指がお留守になっていた圭斗の話を聞きながら、ただただ目の前のカルボナーラをうまうますることだけに集中していた。
圭斗は9月下旬くらいに彼女が出来ていたそうだ。その彼女がどういう子なのかはあまりよく知らない。でも、野球が好きで、それもかなり熱狂的すぎるタイプの子であるということは聞いた。
スポーツに関心がない圭斗は、野球にしたって今あるプロ野球の12球団の名前と本拠地のあるエリアを全部言えない。サッカーだってやるのも見るのも管轄外だし、オリンピックなんかも他人事だ。
「おはようございまーす」
「……ます〜……」
「おはよう…? って言うか諏訪姉妹、何か喋り方が逆転してないか?」
かんなとあやめと言えば双子の姉妹で、はきはきと文章で喋るのが姉のかんな、考えていることがかんなとそう違わないからという理由でかんなの後に「です」とか「ます」と言うことで言葉の威力を二乗するのが妹のあやめ、という区別の仕方だった。
それがどうした。今じゃおはようございまーすとはきはきと挨拶してるのが妹のかんな、その後にしょぼくれた様子で「ます〜」とついてくるのが姉のかんなになってしまっている。と言うか2人揃うのも久しぶりに見た気がする。