物を書く作業は、ここが一番落ち着くなあと思う。土曜日で一般的には休みなのにわざわざ大学まで出てきての作業。ミーティングルームの班のブースでカリカリと手を動かす。家には誘惑が多いし、それを断ち切ることも出来ていいよね。
夏合宿まであと3日。それまでに少しでもしっかりトークを詰めておきたい。一言一句詰めた台本を書くことは禁止されていて、単語レベルだったり一文程度のメモ書きでしっかりまとめておかないといけない。
手元には、5班班長で私とペアを組む野坂先輩がくれた初心者講習会のレジュメ。私とあやめは講習会に出ていないからとわざわざ用意してくれた物。これを見て、自分で考えながらしっかりとトークを組み立てていく。
「はー……しんど」
「今日は一段と酷かったな」
緑ヶ丘で行われた夏合宿の班練習後、そのまま緑大のカフェテリアでLと班の今後について話し合うことにした。夏合宿まで1週間を切っているのにこれ以上何かを向上させられる気もせず、ただ耐えるだけになるのかと軽い絶望感さえ漂う。
「ミラ、大丈夫かな」
「大丈夫じゃないと思う」
「淡々と言うね」
「じゃーん! 見て見て、サドニナ可愛いですよねー!」
「どうしたんですかサドニナ、お花なんて頭に付けて。アホっぽさに拍車がかかってますよ」
「一言余計ですよこーた先輩! これは、夏合宿の番組本番のときにみんなお揃いで付ける衣装のお花でーす!」
「えー!」
なんてこったい。一言で言うならそんな感じですね。突然サドニナが何を思ったか、花飾りなんて持って来るじゃないですか。しかも本人はそれを頭に付けていて。それが? 当日の番組の衣装ですって? そんなの聞いた事ありませんよ。
私は無言で班長であるツカサさんに目で訴えます。サドニナを止めてくださいましと。ですが反応はありません。と言うか完全に固まってますね。まあそうでしょうねえ。星大さんは良くも悪くも普通で平均的。ぶっ飛んだ言動への対処法がデータベースになくても仕方ありません。
「うう、緊張するんだ」
「大丈夫だよホッシー」
今日は夏合宿に向けた班の全体練習。アタシが班長を勤める1班は、今のところ至極順調に進んでいた。合宿まであと1週間ということで通し練習をしてみようとカズ先輩から提案があって、その準備をしているのだけど。
いざやろうとすると、マイクの前に座ったホッシーがガタガタと震え始めたのだ。大丈夫大丈夫とカズ先輩が緊張を解してくれようとしているのだけど、ホッシーは緊張するんだ、ダメなんだとその震えを大きくしていて。
「おう、高崎そんじゃーな! 帰ってきたらレポート添削よろしく!」
「うー……」
乗り物酔いでグロッキーになっている高崎が車から降りると、いよいよここから本格的な帰省が始まる。
丸の池ステージも向舞祭も終わり、ようやく俺も実家に帰ることが出来るようになった。どうやら向舞祭を見に来ていたらしいシンこと飯野晋哉と高校振りに再会して、話が盛り上がった結果シンの車で一緒に買えることになった。
何か成り行きで俺と山口、それからシンと高崎の4人でうちの近くの髭でちょっと集まっていて、軽く食べたりここまでのことを話したりして現在に至る。シンが向舞祭に来ていたのはゼミのレポートのためらしい。高崎はそのお付きだとか。