菜月さんがイライラしているのは明らかだった。紙の上にはシャーペンの芯が折れた跡が山積している。菜月さんの横で指示を出すのは三井。三井の言うことを一言一句漏らさず書かなければならないという拷問を受ける中で、ストレスが溜まっているのだろう。
事の発端は、僕が持ち帰ってきた1枚のディスクだった。インターフェイスでは作品出典と称して各大学の制作した作品を持ち寄りモニターするという活動がある。先月の定例会では星ヶ丘の作品が提出されていた。今月の定例会を直前にして、そのモニターをしなければならないことを思い出したのだ。
「自分のキャパ以上の脚本な上にそれを演じる方もついていけていない」
「自分の、キャ……あっ」
「おはようございます雄介さん」
「スタッフでない者が何故センターにいる」
林原さんのこれも、すでに挨拶代わりになっている。秋学期から、情報センターには新しいスタッフとして烏丸さんが加入した。そして、自称研修生として演劇部の看板女優さんである綾瀬香菜子さんがやってきたんだけど……。
カナコさんがセンターにやってきたのは何か訳ありのようだった。話せば長くなるそうだけど、春山さんが組んだバンドの関係で知り合って、カナコさんが春山さんと林原さんに懐いてしまったとかそんな感じなんだって。
春山さんはいいじゃねーかとカナコさんの研修生発言にも寛容だけど、林原さんが頑なに認めようとしないでいる。まあ、バイトリーダーの春山さんがカナコさんの味方だということで、気付いたらカナコさんも馴染みつつありましたよね。