「みかんが美味しいんだ」
「星羅、もう何個目だそれ。食べ過ぎじゃないか」
「美味しいんだ。仕方ないんだ」
こたつにミカンは冬の風物詩。それをいいことに、星羅は段ボール箱を空にする勢いでミカンを食べ続けている。美味しいから仕方ないとは言うけど、ミカンばっかり食べてちゃお腹いっぱいで他の物が食べられなくなる。
俺はと言えば、須賀家のリビングにお邪魔して普通にミカンを食べているワケだけども。ちなみに、須賀家にいる用事は大晦日に控えたライブに向けた練習だ。って言うか耳コピでノルマとして配布された曲を覚えてやれるようになってこいって何気にすごく鬼畜。
俺は、と言うかCONTINUEというバンドは須賀家のスタジオでよく練習をさせてもらっている。それというのも、星羅のお父さんがその筋では有名なサックス奏者で、家にもスタジオがある。縁で俺たちも誠司さんのお世話になっているのだ。
「塩見さーん、具がお肉しかないみたいなんですけど、これでいいんですか?」
「ああ。後はミヤがネギを持ってくる。今日やるのは魯山人風のすき焼きっつーヤツだからこれでいいらしい」
「お肉とネギだけ…?」
「心配すんな。お前が食うことを前提に飯は炊いてある」
「ありがとうございます」
連休に入ったということで、今日は塩見さんの家ですき焼き大会。今回呼ばれているのは俺と伊東さん、それから社員の高沢さん。今は俺と塩見さんで準備中、とは言っても大体塩見さんがやってくれてるんだけど。
魯山人風のすき焼きをやりたいって塩見さんに提案したのは伊東さんなんだって。それがどんなすき焼きかっていう画像を塩見さんが見せてくれたけど、本当に肉とネギだけだなあ。輪切りにしたネギを立てて、その周りを肉で囲んでるだけ。