「……よしっ。行くぞ浅浦、戦争だ!」
東都に出陣した彼女を見送り伊東が実家に戻って来ると、年末だという感じがする。数年前、うちの父さんが蕎麦打ちを始めた。それが人に出せる物になってからは、年越しには伊東家の面々も招待して年越し蕎麦を食べることが恒例行事になっている。
俺と伊東はその年越し蕎麦や正月に向けた買い物を頼まれるようになっていた。それぞれの母や兄弟は大掃除などに忙しくしていて外に出られない。派手な片付けの必要がないと見なされていることや、1人暮らしで買い物が日常の仕事と化していることもあり、外回りを担当するのだ。
伊東は買い物カゴを手に颯爽と俺の車の助手席に乗り込む。この買い物では基本的に俺がドライバーを担当することになっている。その理由はただひとつ。コイツの極度の方向音痴だ。と言うか、伊東家は方向音痴が多すぎる。京子さんも酷いし、美弥子も軽度の方向音痴だ。でもコイツが一番酷い。
「フミ、アンタこーた君が来るって言うのに掃除のひとつもしてなかったの?」
「通常運転でイケると思いました」
「ちょっと酷すぎるから、布団上げて簡単にでいいから片付けなさい」
「こーた、手伝え」
「友達に手伝わせるって」
「いえ、お邪魔させていただきますし、お手伝いしますよ」
「そう? ゴメンねこのドラ息子が」
年の瀬の野坂家にどうしてこーたがいるのかという話である。簡単に言うと、家族旅行からハブられたのだ。厳密に言うと、弟(高3)の彼女(中3・ハーフ)の家の年越し家族旅行に招待された神崎家だったワケだけど、こーたはバイトもあるし旅行を辞退したのだ。
バイトがあるのも本当だけど、旅行を辞退した理由は弟の彼女とはそんなに仲良くないし、むしろ簡易的に分けただけの部屋でいちゃいちゃしているのを日頃から聞かされているので我慢が限界に達しているし、年末のオタ活を充実させたいという理由だ。