朝霞先輩から誘われて始めたカバンの吊り札を付け替える仕事は佳境を迎えていて、もうすぐ最後のカラーに入るとか入らないとかいう話がチラリと聞こえても来ていた。だけど、現場はあまりの緊張感に包まれていた。
いつもなら作業小屋に常駐しているのはアルバイトの大石先輩なんだけど、今日は社員の塩見さんなんだ。大石先輩が優しくてほわほわ〜っとした感じだとすれば、塩見さんはとにかく厳しい。学生は別にいつも通り作業をするだけだけど、主婦の皆さんの様子が全然違う。
いや、確かにいつも人材派遣会社から来ている主婦の皆さんはお喋りの方に夢中になっていて塩見さんから雷を落とされてはいる。だけど今日は特にお小言を言われたワケでもなく、雷が落ちたワケでもないのになんだろうこの圧みたいな物は。そういう人を近場で誰か知ってるなあと思ったら、ああ、うん。言わないでおこう。