「お会計は576円になります」
「電子マネーで」
シャリーンと会計終了の音が鳴り、スッとカードを財布に仕舞う姿は様になっている。それこそアオの見た目のイメージ通り、「デキる」っていう感じ。
「お待たせ」
「アオ、カードで払うんだね」
「考えた末にね」
アオは機械のように動く。もうちょっと詳しく言うと、動き方がルーチンみたいになってるって言うか、計画性が凄すぎると言うか。マイペースと言えばマイペース。
何時までにこれこれこうこうって計画を立てたら、目的を達成するまでは絶対に予定を曲げないし、目的達成の邪魔になる存在――例えば、のろのろ歩いて歩道を塞ぐ人たちを物理的に蹴散らそうともする。
だけど、そんなアオに人間味をもたらしているのがたまにやらかすドジだと思う。ぶりっ子だったら引くけど、アオの場合はかわいいと言うか、人間なんだなあってホッとする。
「カードならレシートと仕舞うときに小銭を落とさなくて済むし」
「そうだよね。アオのことだからいつかカードを落とすだろうけど」
「ミドリ、縁起でもないこと言わないでよ。あ、そうだ。レシートも廃止しよう」
「えっ」
また無茶な。だけど、これもアオなりの障害の蹴散らし方なんだと思う。いつもの発想に比べればまだまだ物騒じゃなさそうだし、レシート廃止案は聞いてみよう。
「例えば、カードをかざして会計したら、スマホとかの会計アプリの方にレシートが即配信される仕組み。それを応用すれば家計簿なんかも記録が楽そうじゃない?」
「でも、都会や大型店舗ならともかく、地方や個人商店だと設備が普及するのに時間がかかるんじゃないかなあ。それに、みんながみんなスマホを持ってるワケでもないし、新しい規格のカードが出てきたらそれにも対応しなきゃ」
「ミドリって時々反論の余地のない真っ当なことを言うよね」
これだから夢のない男は、と大きな溜め息をもらってしまう。いや、でもそれくらいのことなら夢と言うよりも近い将来実現しそうなことだから、SFみたいな扱いをするのもなあって。
そもそも、小銭を文鎮代わりに渡されるレシートを上手に財布にしまえないというだけのことでレシート自体を亡き物にしようとするアオの薙刀っぷりだ。
「でも、私はやっぱりみんな余裕なさすぎだと思う」
「パッと見アオの方がカツカツに見えるけどね」
「私は常に余裕を持ってる。些細なやらかしで遅れていくコンマ何秒の積み重ねが後々自分の首を絞めるって知ってるから。こないだもレジ前で小銭落としたけど、後ろにいたリーマンが舌打ちしてたからぶっ飛ばしてやろうかと」
「思った、だけだよね…?」
やらかしもすべて計算に入れた上での計画なのが、アオのしっかりしているところだと思う。だからちょっとやらかしたくらいじゃ動じないんだろうなあ。それは見習わなきゃ。
俺はちょっと予定外のことが起きたらバタバタしちゃうから、そこから先も慌てて動いちゃう。だからアオの落ち着いたところは分けてもらいたいけど、レシートは普通にしまえるままでありたい。
「やっぱりレシートは本当に廃止してもいいと思う」
「でもさアオ、データになったらなったでプリントアウトして手元に持っときたいって思うようになるのが人間だと思うなー」
「やっぱミドリって時々」
end.
++++
イメージ的にはミドリがふわふわしてて蒼希がそれをバッサリ斬りそうなものだけど、アオミドのコンビは意外に見た目と役割が逆。
突拍子もない言動の慧梨夏(と高崎)の影響がある蒼希と、「事実を言って何が悪い」のリン様の影響にあるミドリだからだろうか。
星大の中を含めたインターフェイス1年生の間では、ミドリも意外とバッサバッサみんなを斬ってくれるんだろうな(しろめ)