福島さんにとても似つかないクマが出来ているのには、触れるべきではないのだろう。元々がナチュラルメイクの人だけど、その部分を塗り潰してはあるのかもしれない。だけど、浮かぶそれ。
何発信かはあまりよく覚えていないけど、ふとしたきっかけで久々に会ってみようかと至る今。彼女からのリクエストは、雑誌に載っていたという徒歩で行くには少し辛いカフェ。
「石川クン、付き合ってくれてありがとう」
「俺でよければいつでも。でも、何か意外だな」
「何が?」
「青女の子じゃなくて俺だなんて」
「みんなそれぞれ忙しいっていうのもあるんだけど、あっ、石川クンが暇そうってワケじゃないんだよ? 昨日ABCでも4年生追いコンがあって顔合わせたばかりだし、追いコンが結構激しかったから当分いいかなって」
キャラメルソースのかかったワッフルを割りながら、彼女は4年生追いコンがやつれた顔を作ったのだと雰囲気で語る。尤も、それは俺の邪推に過ぎない。
青葉女学園大学と言えば、男が多い向島インターフェイス放送委員会における唯一の女子大で、とても華やかな印象がある。ただ、女だらけのところに闇が潜むのはお約束だろう。
「他校だと菜月ちゃんは実家だし美奈ちゃんは声かけられるほど仲良くもないでしょ? そうなるとやっぱり石川クンが最初に思い浮かんじゃって」
「光栄です」
「何て言うか、距離間って言うのかな。ABC内ほど近すぎず、サークルに関係ない子ほど遠くもなく。昔話も先の話も出来そうな」
「福島さん、4年生追いコンで何かあったの?」
「シーナさんが例によって激しくってさ」
「ああ……噂に聞くシーナさん」
青女の闇には核と言える存在があるというのは対策委員としてインターフェイス内をバタバタ走り回っていたときから薄々察していたところではある。その核こそが、4年生のシーナさんだという。
関わるとマズいと本能が察したのか、彼女に関する必要以上の情報を入れていないからフルネームは知らない。シーナが名字なのか名前なのか、それともあだ名なのかすら。
俺たちが対策委員だった2年生当時までは手続きをすれば男も入ることが出来ていた青女の敷地だけど、完全に男子禁制になったのはこのシーナさんがやらかしたことがきっかけだという話は聞いた。
「七分袖のシャツを着られると、やっぱり生々しくて」
「露出するなら傷跡にコンシーラーでも塗るべきだよな、構ってちゃんか」
「そんな感じだよホントに」
青女の闇の詳しいことはまだわからないけど、多分知らない方がいい。福島さんが俺に対して遠慮しなくなればそのうちわかるだろうから、自分から彼女のトラウマを掘り起こしに行くことはしない。
すると、彼女は俺がコンシーラーという道具のことを知っていたことに驚きを見せる。いかにも無頓着そうに見えたと。実際そうだけど、それに関しては美奈の物を見たことがある。知っているのはそれだけの理由。
「そっか、美奈ちゃんメイク上手だもんね。菜月ちゃんはすっぴんであの白さだしホント羨ましい」
「美奈は化粧にかける情念と金がハンパないし、奥村さんの白さは雪国育ちっていう環境だろうから、どうだろう。福島さんは今の感じがいいと思うけど」
「そんなこと言っても何も出ないからね」
「そんなつもりじゃなかったんだけどな」
「ゴメン、ついサークルでのクセで」
「せっかくだし、気分転換にこの後どっか行こうか」
end.
++++
たまーにやりたくなる石川と紗希ちゃん。前対策委員のミキサーコンビはお互いにインターフェイス内での順位は高めだと思う。
そしてチラッと語られた青女の闇に、4年生のシーナさんという人がどうも絡んでいるらしい。何があったんだ青女!
今回のイシカー兄さんは純粋にいい人である。何てったって前対策委員はひょっとしなくたって紗希ちゃん最強説だからね!