「朝霞、これはどういうことなの」
「……あのなあ宇部、俺に言われてもどうしようもないことっていうのはあるぞ」
「わかってるわ。でも、私も一応この件に関するあなたの責任について問い詰めなければならない立場だということを理解してもらえると嬉しいわ」
真っ暗な部室、そこで行われているのは尋問とか説教とか、そんな類の話で決していい話題ではない。ただ、いつもと雰囲気が少し違うのは、宇部が呆れ返っているというところだろう。
星ヶ丘の放送部は幹部の言うことが絶対。とは言え、その幹部ですら部長の意向に逆らうと首を切られるのは同じ。いくらくだらないと思っていても、やらなければならない仕事はある。
「こないだのファンフェスの件ならともかく、今回の件に関しては俺に非は100%ないぞ」
「私もそれはわかってるのよ」
「うん、まあ、お前がそれをわかってくれてるならまだ救われるんだけどな」
「大体、インターフェイス加盟校の男に手を出されたとか、そんなの本人のガードが緩いだけじゃないの」
「まったくだ」
そう、今回俺が宇部に呼び出されているのは、ウチの1年がインターフェイス加盟校の男と個人的に会って告白されたとかそんなような事案だ。それも、IFとは全く関係ないルートで知り合ったらしい。
と言うかぶっちゃけ向島のミッツだ。確かに奴は有名な告り魔ではある。誰彼構わず惚れる傾向にあるとは圭斗がよく言っている。だからと言って、それは決して俺の所為じゃないだろ。
だけど、日高に言わせればそんな危険な奴がいると一言も言わない俺の所為なんだとか。いーじゃねーか別に襲われたとかじゃねーんだから。しかも部活とは関係ないところでやってることだぞ。
「そもそも本来それをすべきテメーが部員の動きを把握してねークセして流刑地の俺にそれを求めるなって話で」
「朝霞、その愚痴なら後日洋平の店で聞くわ。今はとりあえず上辺だけでも再発防止策を立てることよ」
「何だよ再発防止策って。インターフェイスの活動に出るなら男に近付くなっつーワケにはいかねーぞ。大体部内恋愛は部室でヤろうが昔から放置しまくってるクセによ」
「部内恋愛に関しては、よほどの事情がない限り自由なんでしょう。例えば、対象が流刑地の人間であるとかそういう事情でもない限り」
「……すまん」
「いいえ。とにかく、続きは後日聞くわ」
何を隠そう宇部本人が部内恋愛をしていた。ただ、その相手が山口だったのが運の悪さだったのかもしれない。山口と付き合うのは自由だけど、部での立場は保証しない。そうやって宇部は当時の幹部から脅しをかけられた。
現在の宇部が監査という職に就いていることから下した決断はお察しだけど、山口と宇部の双方が言うことによれば、嫌いで別れたワケではないから別に何も変わらないし、互いの姿勢は尊敬し続けている、と。
「私からすれば、部内だろうとインターフェイスだろうと、どこでも盛るような男は去勢するべきだと思うわ」
「お前、それはちょっと極論っつーか過激すぎるだろ。さすがにそれを再発防止策には出来ないな……」
「大体ここの女も股が緩いのよ部室はホテルじゃないのよバカじゃないの注意したらしたで聞こえてるのよヒスの監査は行き遅れの処女だって、誰がヒステリーで行き遅れの処女よ大体処女ではないし何を根拠にそう言ってるのか聞かせなさいよって感じだしアンタたちみたく見境なくいつでもどこでもするワケじゃなくて場所くらい選ぶわよ」
「宇部、落ち着け、酸欠になるぞ。その愚痴は後日聞くから、な」
「悪いわね、朝霞」
結局、まともな再発防止策は浮かばないまま始末書と向き合う時間が始まった。ぶっちゃけ、そんなのは各自で気をつけてもらう以外に防止する方法はない。
これでインターフェイスに関係ない男とやらかしたとしても俺の所為になるのだとすれば、またキレて謹慎にされかねない。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねとも言うし、もうほっとけとしか言えない。
「朝霞、一応定例会で話題にしてもらえるかしら」
「……うん、まあ、定例会議長に直で訴えてみる」
end.
++++
宇部Pは怒ると息継ぎする暇もなくマシンガンで語り倒す傾向にあるらしい。慧梨夏の萌えトークや直クンが図星を突かれた時にも通じる物がある。
宇部Pにしても、ンなアホな、というような案件で朝霞Pに詰め寄らなくてはならなかったりして結構ストレスが溜まっていそうである。
そして困った時の定例会議長である。しかしアレよ、圭斗さんはこの時期タダでさえ三井サン関連のトラブルで大変なのにまーた連絡が来るのね!!!