「みーなーもー」
「は〜あ〜い〜」
ぴぽんぴぽんとインターホンを短めに2つ鳴らせば、顔見知りがきましたよという合図。うちの部屋から徒歩10秒、2部屋隣のそこがみなもの部屋。
うちは休日モードのジャージにメガネ、みなもは一応外に出られる程度の簡単なカッコ。これから始まるのは他でもない、お互いのジャンル別トーク。
「相変わらず足の踏み場がないなあ!」
「みやっちには言われたくナぁーイ」
「うちの部屋はキレイですー」
「昨日カズさん来てたもんねえ」
みなもとは共通の友達をきっかけに1年生のときに知り合った。最初はごくごく一般的な話をしてたんだけど、腐海とか沼に生きる人間って、同じニオイの人がわかるんだよね何となく。
それでそれとなーく突っついてみたら大当たり。以来お互いやりたい放題してるんだけど、どんな偶然かジャンルかぶり一切なし。だからお互いの話を聞くだけ聞いて、話すだけ話す。一番健全な付き合い方。
ちなみにみなもは二次元は女児向け少女向け少年・青年アニメラノベ純文学などなど何でも来いで、三次元でも俳優やバンドにお熱。広く深く熱しやすく冷めにくい。最たる疑問はいつ寝てるのかですね。
「最近またカズと会えてなかったから、何かその埋め合わせみたい」
「このバカップルが!」
「サッカー見る機会多かったみたいだからねー」
「って言うか、みやっちも原稿やってたりゲームやってますよね現在進行形で」
「うちはほら、カズの掃除の邪魔にならないようにイスの上から一歩も動かずにゲームしてたから!」
「浅浦クンにチクってやる〜」
「もう知ってるから大丈夫〜」
「カズさんがみやっちをダメにしているポイント、加算されてしまえ!」
ちなみにみなもは文学部で、浅浦クンと同じゼミらしい。みなもは元々隠れオタクでゼミなんかじゃ文学少女の皮をかぶってる。浅浦クンともそういう付き合い方をしてたけど、うち経由でバレたよね。
それが逆によかったのか浅浦クンもみなもと話しやすくなったみたいだし、みなもも文学部の王子様じゃない方の浅浦クンの素顔みたいなのを見て気兼ねしなくなったとか。
「あー、浅浦クンと言えばー、グラタンが食べたいー」
「食べたあい、グラタンがターベターイデース、みやっちぃ」
「よし、電話しよう」
みなもの部屋でこうやって過ごしていると時間の経過を忘れてご飯どきになってるとかザラ。ピザを注文したりすることもあるけど、今日はグラタンが食べたいのでーす!
プルルル、と音が何回か回ったところで応答アリ。人の顔とか名前を見る度にいい予感はしないって言ってくれる浅浦クンなので、今もきっと嫌な予感がしちゃってくれてるんだろうな! ちきしょう!
『もしもし』
「もしもーし、浅浦クン?」
『何の用だ』
「今ねえ、みなもと喋ってたら浅浦クンのグラタンが食べたいなあというお話になりまして。材料買ってくし、作ってもらえないかなあと思ってお電話させていただきました」
みなももうんうんと頷いている。言っちゃえば、唐突にご飯ーご飯ーと浅浦クンにぴよぴよとご飯を催促するなんてことは珍しくない。月に1回はある定期イベントだから、覚悟はしてくれてそうだけどなあ。
『ちょうど良かった』
「えっ?」
『アンタから電話かかってくるほんの3分前に伊東からグラタン食わせろって電話があったばっかなんだ』
「えー!? なにやってんのカズ!」
『4人分の買い物してきてくれたら作るよ。ついでだから伊東も拾って一緒に来たらいいんじゃないか?』
「そうだね、そうするー」
『伊東と行けば大丈夫だろうけど、サラダとスープの材料もな』
「はーい」
電話が切れる。2人ともに浮かぶ表情は「なんてこった」以外に訳しようがない。とりあえず、カズを捕まえるところから始めよう。
「ああ……うちは妄想の捗るシチュエーションを自らぶち壊すという愚行を…!」
「みやっち、みやっちは空気」
「うちは空気」
「心の眼」
「心の眼」
「原稿のネタ」
「原稿のネタ」
end.
++++
放送系以外の本当の日常の話がやりたいと思ったら、慧梨夏とみなもちゃんの爛れた話になってしまいましたとさ
仕方ない、爛れた日常の話もやらないと今後のいちえりだの高崎絡みのあれやこれやに説得力が、とかいう言い訳である。たまにはいいよね
一品だけが許せない浅浦クンはサラダやスープなども添えるけど、そういう買い物に対し「伊東と行けば大丈夫だろうけど」ってどういう確認やwww