「誰か、まだいるか?」
時刻は午後6時過ぎ。利用者がいるかどうか少し怪しい時間帯の情報センターに顔を出す。事務所では、春山さんが暇そうに本を読んでいる。やはり人は少ないらしい。
「何だ、リンか。お前今日シフト入ってないのにどうした」
「少し遠出をしたので軽く摘む物を買ってきただけで、大した用では。アンタだけですか、春山さん」
「いや、川北がB番で自習室にいる。どーせ人なんかもう来ないだろ、呼んでくるか? 小腹も空く時間帯だ、お茶にしよう。リン、お湯を沸かしてくれ」
春山さんが自習室に声をかけると、川北がひゃーひゃーと喜びながら事務所に戻ってくる。今日いるのはこれだけということで、買って来た菓子の包装を開ける。
「おっ、西京か」
「はい。成り行きですが」
「えー、西京ですかー!? いいなー、神社とかお寺の構造って楽しいですよねー! あとビルとか橋とか、楽しいですとにかく」
「そうか、川北はそうなるか」
「私は歴史も好きだからな。京の町並み、ああいうのは好物だ」
「アンタも結構興味の幅が広いですよね」
「褒め言葉として受け取ろう」
「この件に関しては素直に感心しています」
菓子の包装で行き先をわかられたところで、それぞれのロマンに思いを馳せる。一緒に行ったのが美奈だったから美術的要素が強かったが、それぞれに強い分野の話は聞いてみたくもある。
川北なら建築だし、春山さんなら今回は歴史になるらしい。2人の興味関心とは合わんかもしれんが、抹茶ラングドシャを摘みつつ少しばかりの土産話を。
「でだ、そこで食べた漬け物が美味くて――ああ、思い出した。川北、これはお前にだ」
「えっ? あー、漬け物ー!」
「長篠の物ではないから口に合うかはわからんが、前に丼を食いに行った時に漬け物が好きだと言っていただろう」
「えー、ありがとうございますー! わー、ご飯が進みそうですねー!」
川北に対しては、見ようによっては餌付けにも捉えられるかもしれんな。ただ、そこまで高いものでもないのにひゃーひゃーと喜ぶこの反応が面白いというだけの理由だ。
川北に土産として漬け物をやったまではよかった。しかし、こうなると黙っていないのが菓子をかじりながら人に対して無言の圧を与えてくるバイトリーダー様だ。
「リン、私には何かないのか」
「菓子を食っとるだろう」
「私も漬け物が食ーべーたーいー!」
「いい歳をして駄々をコネるな」
「白飯に漬ーけーもーのー! おー茶ー漬ーけー!」
「あっ、お茶漬けいいですよねー」
確かに、茶も少しは買ってきた。ただ、本当に少しだ。ちょっとした土産にここまで食いつかれるとは思わなかった。春山さんの横暴さをすっかり忘れていた。
「川北ァー、今日バイト上がったらお前の部屋で漬け物パーティーにしよーぜー」
「いいですよー」
「リン、お前も来い」
「今日は自宅に戻ってガッツリ寝ようかと思っていたのだが」
昨日から今日にかけてサービスエリアで取った30分の仮眠以外に睡眠らしい睡眠を取っていない。さすがにそろそろと思っていたのに、面倒なことになりそうな予感がする。
「今から帰ったら2時間は寝れるな。川北の部屋に9時半集合」
「おい、勝手に話を進めるな」
「でも、俺と春山さんが2人でパーティーっていうのもちょっと違いませんかー?」
「いや、何も違わん。ぜひ楽しんでくれ」
「えー!? 林原さんも一緒にご飯食べましょうよー、地元の漬け物もありますよー?」
「そこまで言うなら行ってやる。ただし、眠くなったら容赦なく寝るぞ」
end.
++++
リン様マジリン様、にはちょっと遠かったリン様誕である。情報センター久し振りに書いたのだけど、情報センターはミドリがかわいけりゃなんでもいいやげふん
リン様の土産話と言うよりは漬物がメインになっていった例によってバイザウェイ話である。いやもうミドリがかわいけりゃなんでも……
これは冴の分でー、とかってスタッフの人数分分けたりするのは意外と春山さんがそういうのは気が利きそうだと思ったなどと