「ただいま〜」
「おかえり洋平、意外と早かったじゃん」
「で、どうする」
目の前では、山口先輩とつばめ先輩が何やらひそひそと打ち合わせ中。朝霞先輩は班長会議に出席しているからもうしばらくは戻って来ないだろう。
星ヶ丘大学放送部の一大イベントである丸の池ステージまでは1週間を切っている。どこの班も最終確認に一生懸命。それは朝霞班も例外ではなく。
なのに、山口先輩とつばめ先輩の打ち合わせは、どうもステージのこととは関係ないような。つばめ先輩だし、対策委員のことかもしれないとは思ったけど、それとも違う。
「買っては来てみたものの、どうしようね、これ」
「フツーに置いとけば?」
「でもさ、時期が時期とは言えやっぱりねえ。せっかく誕生日なんだから」
ないような物だとは言っていた。確かに、俺は自分の耳でそう聞いた。状況から考えると、ないような物になるのは間違っていないと思うし、そうなっても仕方ない。
朝霞班では6月下旬に誕生日ラッシュを迎える。22日に山口先輩、23日がつばめ先輩、24日が俺、そして25日に4年生の越谷さんの誕生日が連続する。
朝霞先輩の誕生日は何を隠そう今日、7月29日。世間的には何てことない平日だけど、放送部的には丸の池前でバタバタしてるからそれどころじゃない。特に、ステージの鬼と呼ばれる朝霞先輩には。
「せめて飾り付けようか、つばちゃん何か紐とか持ってる?」
「今の朝霞サンがそんなムダな飾りに関心持つように見えるか?」
「見えないけど、せめてね」
そう言ってコンビニ袋から山口先輩が取り出したのは330mlのアルミボトル。もちろん朝霞先輩の代名詞とも言えるレッドブル。
どう結べばそれっぽくなるかなと山口先輩が試行錯誤するけど、つばめ先輩は手を出そうとしない。やるだけムダなのに、と溜め息をひとつ。
「そう言えば、朝霞先輩の誕生日って今日でしたっけ」
「この時期にそーゆーのを仕込むだけムダなのに、洋平は自分たちのときはあったからって聞かないし」
「つばめ先輩は、朝霞先輩を祝わないんですか?」
「祝わないんじゃなくて、祝うなら朝霞サンの意識がステージから戻って来てからの方がいいのにって言ってるだけだよ」
確かにこの時期の朝霞先輩がステージ以外に意識が向いていないのは誰の目から見てもそうだから仕方ないのかもしれない。本人が予告するくらいだから、そうなんだろう。
山口先輩が提げて来たコンビニ袋を覗き込むと、黄金色のプリンが輝いている。少し高めの、ちゃんとしたプリン。確か、朝霞先輩はプリンが好きだったはず。だからか。
「プリン買ってきたところでね、普段ならしっかり味わうところをガーッと振って一気飲みすんだから風情も情緒も何もないんだよ今の朝霞サンには」
「振って飲むんですか……」
「丸の池後の打ち上げと兼ねちゃダメなのかって言っても聞かねーんだもんよ洋平は」
ああでもないこうでもないと山口先輩が紐と格闘している。ボトルの首には、お世辞にもキレイとは言えない紐がくたりと下がっているけど、朝霞先輩は果たしてそれに気付くのか。
「つばめ先輩、誕生日のお祝いを2回やったってバチは当たらないと思いますよ」
「ホントアンタっていい意味で悪い風に考えないよね」
end.
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誕生日の話に当人不在、これナノスパあるある。ということで朝霞Pの誕生日話のはずが朝霞P不在! なんてこったい
とりあえず、朝霞Pには急性カフェイン中毒などに気を付けてもらって、レッドブルは適切に飲んでもらうしかない
丸の池が終わったら今度は祭がーって聞かないに30ペソ。朝霞Pの夏はまだまだ終わらない!