公式学年+1年
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昼も夜もない8号館地下1階のスタジオが、その言葉通り昼も夜もなくなっていた。夜、ここをちょっと覗いてみると誰かがいて、ここに泊まるという人も少なくない。
夜にここに来ればここは昼のまんまだし、逆に昼に誰もいなければここは夜になる。今は昼のスタジオ。実際の時間はさて置いて。
佐藤ゼミは元々課題の制作が長丁場になってくると夜の作業が増えてくるけど、それは課題だけじゃなくて大学祭の準備から当日の仕込みにしても同じだったらしい。さすがお祭り好きのゼミだ。
「よーし、休憩にすっか!」
「はー、疲れたー」
今はゼミで出す食品ブースの看板を手直ししているところ。俺たち2年生はぜんざいを出してるんだけど、休憩に出てくるのもぜんざい。最近はちょっとぜんざいも食べ飽きてき……何でもないです。
学年でお揃いのゼミTシャツや、今ならブースの看板。こういったアートグラフィックみたいな作品は美術部の安曇野さんがデザインをする流れになっていた。仕事がめちゃくちゃ出来るんだよなあ。
その安曇野さんは部活で出している作品の手直しに追われているらしく、現在は美術部の部室に篭もっている。だから、壁に貼られた作業リストに従って淡々と作業をするだけ。要らないことはしないように。
「大分直ってきたな」
「そうだね。でも集中してたから目が疲れたよ」
「お前の作業、めちゃ細かいじゃんな」
「安曇野さんからの指名だからね。プレッシャーがすごいよ」
佐竹さんが焼いてくれた餅をぜんざいに沈め、それを口と箸でうにょりとのばす。細かい作業の後には甘いものがしみる。一応適性を見た役割分担にはしてあるらしく、鵠さんに割り当てられたのは力仕事だ。
「高木クン鵠沼クン、ちょっと見てくれる?」
「おお、佐竹すげえじゃん」
「それ、作ったの?」
じゃじゃんと佐竹さんが広げて見せてくれたのは明日の売り子さんが着る衣装だ。知る人ぞ知るコスプレイヤーの佐竹さんに割り振られたのは当然衣装係。スタジオにもミシンが持ち込まれている。
「ほら、先生が青女勢の衣装も作ってあげなさいねって言うからさ。完成してたはずなのに直前で追加アレンジ注文とかやめてほしいよね」
「だな。俺たちに出来ることがあったら言えよ佐竹。パシリでも何でも出来る範囲でやるし」
「うん、そうだね」
「ありがとう」
そう、先生が授業を受け持っている縁で青女の人たちが緑ヶ丘の大学祭に遊びに来ることになっているのだ(こないだそのメンバーが挨拶に来たけど俺にとっては地獄絵図でしかなかった)。
まあ、青女勢が遊びに来るのは明日、2日目なのが救いだ。明日の俺はラジオブースに軟禁される果林先輩を担当するミキサーとして、長丁場の番組をやることになっている。だから外には出られない。
「これ、すっごい細かい服だね。キラキラしてるし」
「高木クンのお友達がすーっごい細かい注文してくれて」
「……サドニナがごめん」
「やるけどね。久々にレイヤー仲間引きずって荷物持ちさせたよ」
「そのレイヤー仲間がゲンゴローだっていうんだから世間って狭いよね」
ぜんざいを食べ終えて、お椀を流し場に持っていく。鍋の中にはまだもう少しぜんざいが残っているし、ボウルの中には小豆が水に浸けられている。
コンロも冷蔵庫も電子レンジもある。ソファも毛布もあるからその気になればここで暮らせてしまうのだ。先生用にコーヒーと砂糖もある。俺はミルクを持ち込めば朝を迎えられるのだけど。
「つーかーれーたーしー!」
「安曇野お疲れ」
「唯香さんお疲れ。ぜんざい食べる?」
「食べるし!」
「高木クーン、そこにいるならぜんざい温めてくれるー?」
「はーい」
end.
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久々に佐藤ゼミ。ここの人たちは本当に昼夜関係なく作業をしている印象。大学祭準備の話のはずが、手違いで当日に食い込み修正。
緑大大学祭の2日目は外部からの人が最も多い日。なので佐藤ゼミのシンボルであるラジオブースでの活動は場数を踏んでるMBCCコンビに――とかではなく果林のつまみ食い防止措置。
ヘルパーサドニナの件は去年からそのまま。今年もあずみんとのバトルを繰り広げてくれると楽しい。でもタカちゃんと鵠さんは疲れそうだなあ