「三井は店番すっぽかして何やってるんだ!」
「別に問題なくないスか。MMPは出不精サークル、誰が店番とか関係なく全員ブースの周りにいるンすから」
「まあね」
向島大学大学祭2日目。DJブースから中華風肉団子スープ屋に様変わりしたブースで圭斗が今日も元気に怒っている。りっちゃんが圭斗を宥めたセリフが真理。MMPは出不精サークル。店番のシフトも意味を成さない。
食品ブースは赤字を出さなきゃいいやというゆるゆるのスタンス。赤字を出さないだけの材料と資材しか用意していないし、売り切れたらそれでおしまい。そもそも、人に出すより自分たちが100円払って食べる方が多い。
「菜月さん、三井から何か聞いてないかい?」
「あー、そういや昨日の夜何か言ってたな、映画がどうとか」
「これはムービースターの試写会挨拶スわ」
「星ヶ丘に行ってる、でいいな」
「いいでーす」
三井が趣味で参加してたっていうインディーズ映画の撮影。それは星ヶ丘の映研の物らしく、大学祭で上映するとか何とかっていう話は前々から聞かされていた。うん。行ってても不思議じゃないな。
「連れ戻すのか?」
「いないならいないで回るから問題ない。三井を見てないかと今の朝霞君に連絡を入れても返信が来るのは明後日だろうし。やらかしてなければそれでいいよ」
「ハハァー、杞憂に終わるといいスねェー」
大学祭2日目は始まったばかり。まだまだお客さんは来ない。自分たちで食べる用のスープを作っていると、ポケットに入れているケータイがやたらウルサい。でも、着信の音楽が前対策委員?
「はいもしもし」
『あっもしもし議長サーン?』
「山口。お前が何の用だ」
『あのね〜? 映研の女の子が三井クンに付きまとわれて〜、助けてーって元々友達の朝霞クンに泣きついたんだけど〜、今の朝霞クンステージ前でお察し状態でさ〜。結局その子は朝霞クンが助けてあげたんだ〜? でもステージ前の集中をジャマされてめちゃくちゃ気ぃ立ってて〜、まあ何て言うか端的に言うと、何で彼が今星ヶ丘にいるの!? 向島さんの学祭はいいの!? 番組とか持ってないの!? ねえ! 俺は朝霞クンとつばちゃんに何発殴られればいいの〜! 見えないところがアザだらけだよ〜!』
おーいおいおいと電話越しに泣き真似を始めてしまった山口にはかける言葉がない。つばめはともかく朝霞に殴られてるのは間接的に三井が原因だと言えるだろう。
ただ、うちにはどうしようもない。とりあえず圭斗に電話を渡して山口の悲痛な叫びを聞かせてやることに。うん、圭斗も何とも言えない表情をしている。なーに最後の最後に問題起こしてやがると。
電話にイヤホンを挿し、それを右と左で分けながら向こうからの音声を圭斗と共有することにした。場合によっては打ち合わせながら対応を考えなければならないから。
「山口君? 僕だよ。この度は三井が迷惑をかけたね」
『あっ松岡クーン! え、朝霞クン代わるの? はいどーぞ』
げっ、と圭斗の口から小さく漏れたのは聞かなかったことにしよう。本番前で気が立ってる鬼のプロデューサーからは、どんなクレームが来るやら。
『圭斗か? 俺だ』
「朝霞君、僕の監督不行き届きだ。実に申し訳ない」
『ミッツ、ついでにウチのステージ見てくとか言ってるからそっちには当分帰らないと思う。ついで扱いしやがって。作品出展で身の程知らずとか見栄っ張りとか言いやがったのを実力で見返すいい機会だ』
「ああ、うん。あまりアイツに気を取られないよう。朝霞君は自分のステージに集中するんだ。僕は見に行けないけど、菜月さん共々陰ながら応援しているよ」
『ああ』
「それじゃあ、次回定例会で。山口君とつばちゃんによろしく」
うちの手にケータイが戻ってくると、圭斗は大きな溜め息をひとつ。自分が食べるために作っていたスープは圭斗の前に。今回のお代はうち持ち。あまりに気苦労が絶えなさそうだから。
「三井は店番すっぽかして何やってるんだ!」
「圭斗先輩ドンマイす」
end.
++++
三井サンそれアカンヤツやあああ!! 各方向からの怒りを最後の最後に買う辺りさすがっす
圭斗さんは今日もいつものように元気に怒っているようで、MMP3年生の最後の砦は意外と菜月さんなのかもしれない(1・2コ上の先輩たちには「菜月がいなければMMPは崩壊する」と言わしめた)。
そして今回は洋平ちゃんと朝霞Pが電話での友情(?)出演なんだけど……こんなアレなら電話する理由がなかったほうが朝霞班には幸せだったのかもしれない