今が何時頃なのかはさっぱりわからない。まだ朝じゃなくって、深夜なんだろうなっていうのは何となくわかるけど。今日はインターフェイスの1年生で集まって、ミドリの部屋で飲んでたんだけど。
いい感じにふわふわしてきて少し目を閉じたら終電はとっくに過ぎてたみたい。あーあ、やっちゃった。目が覚めちゃうとやたら冴えちゃうし。床では男子が雑魚寝してる。そっか、あたしがベッド借りちゃったから。
「う、……ん」
急に、もぞもぞと布擦れの音が大きくなる。それに、魘されているような声。誰だかわかんないけど悪い夢でも見てるのかな。
あたしももう一度寝ようと思って努力してみたけど、誰かの悪い夢が気になってそれどころじゃない。意識がはっきりし過ぎちゃう。そもそも人の部屋だし、慣れた部屋じゃないもんなあ。
「んー……ユ、キ……」
「えっ」
「うーん、うー……やめ、あー……ミ、ユキ……うーん」
「……ミドリ?」
どうやら魘されているのはミドリ。だけどこれは……何とも言えない。尋常じゃないってことだけははっきりとわかる。聞きたい、夢の中で何が起こってるのか。
「ミドリ、ミドリ大丈夫!?」
「うー……」
ベッドから降りてミドリを揺さぶってみると、汗はすごいし表情は苦しそう。いくら揺すってもなかなか目覚める気配がないし、時々誰かの名前を呼んでる。
「ミドリ、ねえミドリ」
「あ……ユ、ユキちゃん……」
「ミドリ大丈夫? お水飲もっか」
「ありがと……」
豆電球の明かりを頼りに2人で台所に。他の子たちを踏まないように気をつけながら。顔を洗って、水を飲んだら少しすっきりしたのか疲れきった表情のミドリに笑顔が戻る。
部屋に戻ったミドリは上着を持って、玄関のドアを開けた。あたしもそれについて外へ出る。まだ夜なのに街は明るい。部屋の前でぴったりくっついて体育座りをして、膝の上の上着は2人で分け合った。
「ミドリ、嫌な夢でも見た?」
「あ、うん。ゴメンね心配かけて」
「ミユキって、呼んでたよね」
「あ、えーと……それは……その、前に言った、彼女。深雪さんていうんだ」
別れた彼女さんは深い雪でミユキ。あたしは美しいに雪のミユキ。漢字で書くと違うけど、音は同じだから実はちょっとドキドキしてた。あたしが何かしてたらどうしようって。
「あたしではなかったんだね」
「うん、ごめん。でもユキちゃんはユキちゃんだし、ユキちゃんの出てくる夢は楽しいよ」
「え、あたしミドリの夢に出てくるの?」
「たまにね。ユキちゃんの出てくる夢は、目覚めた後も、楽しかったなーって、ふわふわーって幸せな気分になるんだー」
「あたしミドリの夢は見たことないなー」
冷たい風が通り抜けて行って、冷え込む時間帯なんだなーと何となく思う。2人で分け合っていた上着はいつの間にかミドリがあたしにたくさんかけてくれていた。
「ユキちゃんがいてくれてよかった」
「えっ」
「ユキちゃんがいなかったら、今も独りで疲れきったまま二度寝するだけだったし」
「じゃあおハナに感謝しないとねー。あたしが帰れなくなるほど飲ませたのおハナだし」
「あはは、ホントだねー」
ホントだねーと笑いながらミドリは鼻をすする。手を取ってみれば、すごく冷たい。
「ミドリ、手冷たいよ。体も冷えてるんじゃない?」
「そうかも」
「もう、上着ほとんどあたしにかけちゃうから。部屋に入って、熱いお茶でも飲もっか。ミドリの部屋ならほうじ茶あるでしょ?」
「うん、あるよ」
「ついでだし、いつでも食べれるように朝ご飯の支度もしよっかー」
「そうだねー」
まだまだ朝は遠いけど、この静かで濃密な時間は今起きてる人だけの特権。台所に2人並んでお茶の支度。まずはやかんを火にかけて。
end.
++++
自給自足はおいしいし楽しいのですばらしい。どうやらインターフェイスの1年生が集まって飲んだり食べたりしていたらしい。
ユキちゃんのお酒の強さはわからないけど、帰れなくなるくらいに飲ませたハナちゃんとは比べ物にならんことは間違いない。
この後はきっと雑魚寝してた野郎たち、と言うかタカエイも一緒にユキちゃんの作った朝ごはんを食べたものだと思われます。