林原さんがカリカリしている。大きく溜め息をついて、あーっと、机の上で指がトントントントン……あー、これはピアノじゃない。イライラしてるなー、触れないのが多分正解だ。
「ユースケ! どーしたの、お腹でも痛いの!?」
「ん?」
「わーっ!」
そもそも、林原さんが不機嫌な理由があるとすれば春山さんなんだよなあ。今日だって本来春山さんが入ってるはずだったけど、急に林原さんに代わりましたよね。
烏丸さんが何をしでかすかわからないのが怖い! 今もゼロ距離だし! 林原さんのご機嫌が普通じゃないのには気付いてるんだったら、そっとしといた方がいいと思うんだけどなあ。
「お腹さすろっか? ねえ、ねえ」
「いや、体の問題ではない。と言うか近い」
「じゃあどうしたの」
「今頃春山さんは悠々自適に映画でも見ているのだと思うと腸が煮えくり返りそうだというだけの話だ」
「やっぱりお腹じゃない。でも俺は春山さんに感謝してるよ! ユースケと1日多く会えたからね!」
烏丸さんのポジティブ力は一体。て言うか春山さん、急にシフト代わったのって映画見るためだったのか……そういや年末にも映画休暇取ってたっけ。今度は何のタイトルだろう。
「そう言えば、林原さんも意外に映画に興味あるような感じですよねー」
「いや、映画と言うよりは扱う物と言った方が正しい。宇宙や音楽、科学の要素がある作品であれば少し見てみたいとは思うが、実際に見るかどうかはまた別だ」
「春山さんが今見てるのはどうですか?」
「針は7割ほど「見たい」に振れている」
年末も何だかんだそうだったんだよなあ、林原さん。自分の見たい映画を春山さんが先に、しかもバイトを休んで(今回はシフトを変えて)まで見に行っているという事実にムカムカしてるんだろうなあ。
「烏丸さんは映画とか見ますかー?」
「生物のドキュメンタリーなら見たいなあ。お話の映画はあんまり興味ないけど」
「お前らしいと言えばお前らしいな」
「あっでもユースケと映画館に行けるなら行ってみたいなあ! 映画館ってポップコーン食べるんだよね!」
「それだけではないがな」
「ねえねえ、ミドリは映画見るの?」
「実は俺、あんまり映画って見ないんですよね。昔はたまに行ってたんですけどね映画館に。カップルがうじゃうじゃいたりしたのを覚えてます」
「人に話を振っておきながら、お前はさほど見んのか」
動物のドキュメンタリーなら映画でもありそうだけど、建築のドキュメンタリーって動物よりも確率は低そうだしなあ。お話の映画は、昔は見ることもあったけど。
地元は何もない町だけど映画館はあったから。デートの定番って感じで見に行ったりもしてたなあと思い出す。あの頃は今ほど興味も偏ってなかったし。ダムは元々好きでよく見に行ってたけど。
「じゃあさユースケ、今日バイト終わったら映画見に行こうよ! ユースケの見たいヤツ見よう!」
「それは構わんが、お前はそれでいいのか」
「俺はユースケがどんなことに興味があるのかに興味があるからね! ミドリはどうする?」
「えっ、俺も誘ってもらってるんですかー!?」
久々に行ってみたいような、一緒に行くのがこの2人というのが少し怖いような。いや、でも林原さんがいろんな意味で守ってくれるだろうと信じたい…!
「川北、お前も“予習”ついでに来てみたらどうだ」
「ちょっ、林原さん“予習”ってどういうことですかー!」
「どういうもそういうも。解釈はお前の思う意味で構わん」
俺の思う意味……ユキちゃんと来ることがあるかもしれないし、そのときにへぼへぼだったらかっこわるいから予習しておいても。そういう意味ですかー!
「ねえユースケ、今日まだやるか調べようよ!」
「烏丸、調べるなら受付用でなく別のマシンでやってくれんか」
end.
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情報センター男3人の映画談義。映画談義? 情報センターは春山さんが映画大好きで、リン様はちょっと見るくらい。ミドリとダイチはちょっと偏ってる。冴さんは知らん
リン様は何気にミドリイジリも大好きな模様。情報センター比だと相談役にはうってつけだけど、一般的には相談役に向かない人だからなあリン様は……
まあ、ダイチはダイチですね。映画館と言えばポップコーンというのも何かの本とかで身に着けた知識かな?