そう、じりじりと見られても、俺には正直どうしようもないというのが本当のところ。もちろん、どうにかしたいとは思ってるし、説得もしている。だけど、手応えはあまり感じられない。
マリンが俺を見る目には、焦りとか怒りのような物が見て取れるだけに、何とも言えなくって。確かに俺も無力ではあるんだけど、何よりつばめ先輩がビクともしない。
「ゲンゴロー、もっと説得してよ」
「してるんだよ。これからもステージやるには方法なんて選んでられないし、マリンをウチの班で受け入れてもらえませんかって」
「うう〜、つばめ先輩〜、どうして受け入れてくれないですか〜! 絶対朝霞の陰謀に決まってる!」
つばめ先輩の言い分も、強ちわからないでもない。だから、今の俺が置かれている板挟みのポジションはなかなかに辛い。
朝霞先輩の否定は流刑地の否定。自分たちが今までやって来たステージの否定。積み上げてきた経験や心の否定だと、つばめ先輩は頑なにマリンを受け入れようとしない。
つばめ先輩は特に朝霞先輩からは厳しく接されていたと思う。もちろん、ステージの準備期間や練習のときの話。声を荒らげるとかも多々。マリンからすれば、それが理不尽な厳しさに映っているのだけど。
「うーん、やっぱり私が宇部班出身だから?」
「多分、それだけじゃないと思う。つばめ先輩は宇部さんの実力自体は認めてるから」
「え、初耳。聞きたい」
「構成にムダがないとか、起こり得るあらゆるケースが計算され尽されてるから、台本はそう滅多に変わらないんじゃないかって言ってた」
「さすが私のつばめ先輩です!」
つばめ先輩は幹部アレルギーの気がある。たまに例外もいるらしいけど、大体の幹部はディレクターを人として扱わないし、実力もないのにふんぞり返るだけの屑がなる物だって。
実際、ディレクターを他のパートの人と同じように扱うよう幹部に言いに行った結果、反逆罪と見なされてつばめ先輩は流刑地……当時の越谷班に飛ばされたという経緯がある。
ただ、つばめ先輩の言うところによれば、宇部さんはプロデューサーとしての実力はまあまああるし、ディレクターの扱い、流刑地に対する見方も他の幹部に比べればまだマシだとか。
じゃあ、つばめ先輩は宇部さんの何が嫌いなのかって言えば、今にも取って食われるんじゃないかっていう目付きと、幹部の役職。それと、言動の真意がわからないこと。
「でも、つばめ先輩も宇部さんのことを半々くらいで否定してるよね。おあいこじゃん。それを抜きにしても私が朝霞を嫌いなのはやっぱり譲れないよ」
「うーん、おあいことかいう話でもないよ。どっちにしろ、今のままじゃ誰にも明日は来ないよ。誰かがどこかで折れなきゃ」
これは、つばめ先輩とマリンの間で板挟みになっている風に見せかけて、実は朝霞先輩と宇部さんの間で板挟みになってるんじゃないかとか、そんな気がしてきた。
でも、その朝霞先輩と宇部さんに実体はなくって、影なんだ。つばめ先輩とマリンの中にいる負の像を持った先輩たちの影が、今の俺たちに当たるはずの光を遮っている。そんなイメージだ。
「俺ももうちょっと頑張ってみるけど、マリンも少し考えてくれると嬉しい。俺はマリンとステージをやりたいと思ってるよ」
「うん、ありがとねゲンゴロー」
お前には、ここでしか出来ないことと、ここでやるべきことがある。
代替わりのときに朝霞先輩からもらった言葉を思い出す。今の俺がやるべきことは、きっと2人の橋渡し。
どんな手を使ってもステージをやりたいって意志を強く持つこと。
山口先輩もそう言っていた。何かがあったとき、つばめ先輩を説得出来るのは俺だけだとも。
「うん、諦めない。どんな手を使っても生き延びたい」
end.
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ここから、星ヶ丘の放送部も来期に向けて少しずつ動いていきます。今年度はゲンゴローのお話が多かったですし、ここでもゲンゴローのターンは続きます。
旧朝霞班、戸田班(仮)に入れてもらいたいマリンと、まだそれを受け入れられないつばちゃんの間で板挟みになってるのがゲンゴロー。
考えなしに班を飛び出したマリンだったけど、移籍先が見つからなかったらどうするつもりなんやろか。