向島インターフェイス放送委員会の定例会メンバーは、IFを支援してくれている企業から祭の手伝いを依頼されている。その内容は大きく言ってMCとPA、つまり司会と音響。
その打ち合わせの合間にもらえた休憩時間は15分。俺と圭斗が飲み物を買いに行って戻ってくると、壁に寄りかかってカオルが寝ている、ように見える。少なくとも目は閉じている。
「……寝てるね」
「ん、寝てるね」
野外イベントのステージMCということで、分野的に言えばステージメインの星ヶ丘や青女にかかる期待は大きい。特にカオルは、学校でもイベントで立て込んでるのにこっちにも顔を出している。そりゃ疲れるだろう。
「寝れるうちに寝ないと体力が減る一方だろうからね」
「つか立ったままでも回復出来るモンなの?」
「さあ。でも、星ヶ丘のステージも過酷だろうし、寝ないよりはいいんじゃないかい?」
立ったまま寝て無防備そうなカオルだけど、どこか覇気のような物はある。寝てるんじゃなくて実は瞑想しているのかもしれない。俺も圭斗も時折カオルに目をやっては首を傾げるだけだ。
「そう言えば、朝霞君の生活って結構謎だよね」
「ワールドカップはたまに見てたけどね一緒に。よっぺが引きずってきてさ」
「ああ、噂には聞いてるよ。IFサッカー部だね」
「体力がない方だとは言ってた。深夜までも起きてられないんだって本来なら」
「本来なら?」
「ステージの前はそんなの関係ないからレッドブル飲みながら気力で起きてるし、どこでだって寝れるって。でもステージの前じゃなかったらそんな風にはならないって」
自分でも言っててちょっと引いた。圭斗の引きっぷりも大層なもので、どんだけステージに生活が左右されているのかと。ひょっとすると、今も俺たちには想像も出来ない生活なのかもしれない。
休憩時間は刻一刻と少なくなっている。今この瞬間もカオルには貴重な睡眠時間で、削られた体力を僅かでも回復できる機会なのだろう。レッドブルだけで動くのは不健康すぎる。
「僕もこのMCのあれこれでバテてきてるからね、ステージはやっぱり壮絶なんだよ」
「そう考えたらステージ2つ掛け持ってるとかカオル半端ねーな」
「本当だよ。それにMCは本業じゃないからね朝霞君は」
「あー、そうじゃんな、冷静に考えたら」
そんなことを話しながら、眠るカオルに目をやった。すると微かにケータイのバイブ音が鳴り、カオルがパチッと目を開く。恐らくアラームであろうそれを止めるのを見つつ思うのは、すごい目覚めの良さだ。
「あー、よく寝た」
「ん、おはよう」
「カオルすげーな」
「何が」
時間はきっかり3分前。残りの時間で何をするのかと様子を見れば、カバンから出てきたのはスポーツドリンク。さすがにレッドブルじゃなかったか。
「冷たいのじゃなくていいのかい?」
「常温でもさほど問題ない。買いに行く時間があるなら寝る」
本当に、生活がステージ中心になってることだけは想像できた。やるからにはどれも全力で。手を抜くことは許されないのだと。さすが、鬼と呼ばれるだけはある。
「俺、このステージが終わったら普通に寝て自分のペースでのんびり飯食って、レッドブルのいらない生活するんだ」
「伊東……朝霞君、何か立てたね」
「うん、立ったな間違いなく、目がイってるし」
「やっぱり極限状態になるんだよステージは」
end.
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テスト期間、星ヶ丘のステージ、夏合宿と同時進行で行われているのが定例会メンバーがお手伝いしている向島エリアのお祭りです。
丸の池ステージ直前で極限状態になっている朝霞Pですが、そんなことは関係なく定例会の方にも顔を出しているのでそら本人曰く体力ないんだから少しでも寝たいのだろう。
今はまだもう少し元気な圭斗さんといち氏ですが、後にどちらかが朝霞Pと立場が逆転することをまだ知らない。