えっと、こういう状況を表すことわざって何て言ったっけ。前門の虎、後門のナントカ。そうだ、狼だ。今の俺はそんな状態。B番の林原さん、事務所の春山さん。
「川北、リストに登録してくれ」
「リン、お前またやりやがったな」
「今回は状況を見ていない春山さんにどうこう言われる筋合いはありませんよ。土田が証人です」
「ちっ」
俺を挟み、受付窓を介した睨み合い。情報センターもテスト期間は繁忙期。普段はセンターを利用しない人も増えて、ルールも何もあったモンじゃない。
センターの利用規約に著しく反する利用者に関しては、スタッフがその利用に制限をかけることが出来る。林原さんは、その権利に則ってそ1枚のカードキーを突きつける。
俺が取り出すのは、カードキーと引き替えに預かっている学生証だ。その番号をセンターのブラックリストに登録するのはA番の仕事。ちなみに今日だけで3件目。これでも一応林原さんにも妥協してもらっている。
「登録しました」
「春山さん、一瞬交代して下さい。自習室内の状況を見てもらわないと」
「で、今の奴は何をしたんだ?」
「室内での飲食、過度の雑談、不要な席の往来、スタッフの注意を無視。他の学生からの苦情もあったので摘み出しました」
「まあ、確かに今の人はカードキー渡すときもめんどくさかったですけどね」
今しがた林原さんに摘み出された人は、受付をするときも一緒に来た友達と席を隣にしてくれと散々ゴネてきたから覚えている。閑散期ならともかくこの時期は無理なのに。
何で出来ないんだとか、隣合った席を用意しろって詰め寄られた時は怖かった。春山さんがその人たちに睨みを効かせてくれたら大人しくなって、助かったんだけど。
「でも、ああいう人が学生課とかにセンターを訴えてきたらどうするんですか? 怖いんですけど」
「逆恨みに他ならんな」
「通りすがりに刺されたりとか」
「単位一つのために人生を棒に振るなど、下らん。まあ、そのような阿呆もいるかもしれんがな」
そう言って林原さんは春山さんを連れて自習室に戻っていってしまった。きっと、春山さんにも自習室の現状を見せているのかもしれない。今日は俺も自習室に入ってないな、そう言えば。
――とか何とかって考えていたらまたひっきりなしに人の波が押し寄せる。学生証を受け取って、カードキーを渡して、空いている席の番号を伝えて。
それだけのことなのに、ヒドく緊張する。いつもよりも慌ただしいからかなあ。でも、慌ただしいならそのうち慣れてくるだろうか。みんな、今の人みたく何でもない人ならいいのに。
「はァー、疲れたァー」
「あ、冴さんお疲れさまです。休憩ですか?」
「林原さんと春山さんとかいう血も涙もない布陣だからしばらくはへーきへーき」
「だといいですけどね」
どうやら、自習室内は相当ピリピリしているのか、そこから解き放たれた冴さんはゆるゆるっとして、本当にリラックスしている。確かに林原さんと春山さんのコンビでB番は……うん、怖い。
「でも冴さん、もし受付の時点で変な人が来たらお願いしますね」
「え、何のコトすか」
「ええっ!? ヒドいですよ冴さあん!」
「冗談冗談」
「本当に、お願いしますよ?」
自習室内はともかく受付は愛と平和がテーマで行こう、と冴さんが言うことはよくわからない。だけど、怖い人が来ても出来るだけ穏便に済ませたいとは思ってるんだ。それも慣れかな。
「川北、リスト登録だ!」
「ええっ!? はーい!」
end.
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情報センターも戦争の季節。冴さんが受付のテーマに「愛と平和」を掲げたけれど、MMPのラブ&ピースとは果たして関係はあるのか!
もしMMPのラブ&ピースと同じ意味だったら受付も自習室も「抹殺」だね! ひー、ラブ&ピース! そしてリン様は安定の\リン様マジリン様/
こうやってミドリが逞しくなっていくのね……情報センターでちょっと変わった人たちに揉まれてるもんなあ。インターフェイスでも慣れっこだね!