人も少ない小さな町の、
人通りない裏路地にあるその店に、
今日も店主に会いお客さんがやって来きます






ネクタイをきちんと締めた店主は、
若い女の子にも、足の悪い年寄りにも、
ただ時間潰しに来た人にも、




「ゆっくりしてってね」、
「美味しいもの作ってあげる」、
「今日は滑るよ、滑るからゆっくりね」

と、ひとりひとりに声をかける
ひとりひとりにです。









こんな風に接客していたら、
さぞかし、疲れるのではないでしょうか
よく何十年も同じスタンスを続けられる
ものだと感心しながら眺めていました。





ひとしきり会話のやり取りの後
少し静かになった頃、



店主は亡くなった奥さんの話を、
カウンターにいる常連と話し始めました。






「いやね。もっとね、なんでね、
まったく。
こんなに早く逝くんだったらさ、
もっと優しくしなかったかなってね。
後悔しかないもんね」




それを聞き、ああそうか
その自責の念からなのか。
だから店主がお客に、ここまでの心遣いが
出来るのかと思いあたりました。



ここまでの話しを聞くと愛想の良い
喫茶店のマスターというイメージが
頭に浮かびますが、違うのです。





実際に前のお客さんとの会話のやり取り中
一度たりとも彼の目も口も笑ってはいない
真顔なのです。





決して一見で理解しやすいスマイリーな
お人好しというタイプとは違うようです。
どっちかというと大手企業幹部のような
生真面目でこだわりの強い印象を受けます。



たぶんそうのでしょう
店は古いのに店内のひとつひとつの物が
手垢ひとつついていないピカピカな状態に
保たれている






それには、この店主の異様なまでの愛や
厳しさがあるからなのでしょう。







店に賭けた分、
身内であり同じ職場の妻にだけは、
辛く厳しく当たったのかもしれない






オーダーもひと段落し
店主がカウンターのお客さんとさっきの続きの話しをしています


「女なんてさ。
たとえばね、100万渡して、
好きなとこ行って遊んでこい、なんて言ったってさ。

なんも。

ほっとんど使わないで、帰ってきちゃう、
そういうもんだもね。

女は使えないんだわ。
ちゃんとお釣り持ってきたりしてね。

うん。
でもさ、だったらさ。

なんでもっと生きてるときに、
100万渡して、好きにしていいぞって、
言ってやんなかったかな。
馬鹿だ。オレは」






店主の馬鹿正直で生真面目で
武骨な優しさに触れたくて、

今日も、
次から次へと
この店にお客さんが集まってきます。






注文したエッグサンドは、
フィリングの卵がゆるゆるで、
切ったときにほとんど潰れかけている。



「ごめんねゆるくて」
と店主は、謝ったけれど、



エッグサンドはフィリングがゆるく、
トーストはカリッと
焼いているほうが美味しいから、
体裁よりも実を取ったのだとわかる。



店主は見た目より美味しさを取った
崩れた見た目を詫びる事で補って
完璧なエッグサンドをお客さんに提供する



そんな店主に、辛く当たられ妻は
きつかったかもしれないが
長年つれそったからには
それなりの理由があったのでしょう





それは当事者のみぞ知るですね







まだ話しは続いております





「ちょっと前にね。
逝ってからね、初めて夢に出たんだよね。
あいつね。
そしたらね、ありがとって、言うんだよね。
おとうさん、ありがとねって。

なんでもっとね。
もっと優しくしなかったんだろって、ほんとにさ」






奥さんの本心でしょう
奥さんは
たくさんの愛を注がれ幸せだったのですね
店主も同じです。















この店の
優しさに
ヒトが集る