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ドラマチックガーデン



泉と阿部+田島







@保育園




「遅くなりましたー!」

仕事終わりにダッシュでここへ来るのが最近の俺の日常だ。毎度時間ギリギリに、ネクタイを緩めながら保育園に駆け込む。

「あぁ、お疲れ様です。」

「いつもすいません、本当。」

息をきらしながら、先生に挨拶をする。彼は最近入って来たらしい、悠一郎のクラス担当の先生だ。最初に見た時、男の先生なんて珍しいなと思ったからよく覚えている。

「別に平気っすよ。」

先生はニコッと笑って、奥から悠一郎を連れて来てくれた。

「コースケ!おせーし!」

「悪い悪い。」

「ま、あべせんせーといっぱいあそべるからいいけど!」

悠一郎の頭をぽんぽんと撫でる。こうして迎えが遅れても機嫌が悪くなることが減ったところを見ると、心底先生に懐いてるようなので安心した。

「コースケのろまだからしたかないしなー!」

人が心配してやってんのに、当の本人はそんなこと言ってへらへら笑ってやがる。っていうか過去1番バッターを務めていた俺様に向かってのろまとはなんだ。聞き捨てならん。殴ってやろうかと思ったけど、阿部先生が変なこと言うから思わず動きが止まった。

「こらお前親にそんな言い方無いだろ。」

瞬間、悠一郎が大笑いしだす。ありえねーとか指差してくるあたり、本当に失礼だなコイツ。

「…コイツ俺の子じゃないっすよ?」

「え!?」

「兄夫婦の子で、今忙しいから送り迎えだけ俺がしてるんです。」

「…あ、そうなんですか。」

阿部先生は失礼しました、と頭を下げた。まぁ、勘違いするのも仕方ないと思う。
それにしても。

「あべせんせー、なんかうれしそう!」

「はぁ!?そんなことないだろ!」

俺も思ったことを、悠一郎がいち早く指摘した。口では失礼しましたとか言っといてあんまり嬉しそうに笑うから、正直一瞬可愛いとか思ってしまったじゃねーか。

「あー!いつもおまえのとうちゃんかっこいいなとかいってたの、コースケのことだったの!?おれほんとのとうちゃんのことかとおもってたのにー!」

焦っているのか、真っ赤になった阿部先生は慌てて悠一郎の口を塞いだ。

「ち、違いますから!まぁあの子供の言うことですしね…!」

「はぁ。」

「おれこどもじゃねーし!きょうからコースケはライバルだ!あべせんせーとけっこんすんのはおれだからな!」

叫びながら先生に抱き着いている悠一郎と目線を合わせるためにその場にしゃがみ込む。

「そういうことなら受けてたつぜ。」

「そうこなくちゃな!」

悠一郎がにこっと笑った。いい年こいてませてやがる。やんわり微笑みながら、頭をくしゃりと撫でてやった。

「…受けて、たつんですか?」

阿部先生が驚いたような声を出したのが聞こえたから、そのまま視線を先生に向ける。

「ご迷惑でなければ、ですが。」

なんだか色々ショートしたようで、固まってしまった先生。面白くて暫く見つめていたら、仕事中である事を思い出したのか、あたふたと変な動きで中に戻って行った。本当、可愛いんだから。





ドラマチックガーデン





あと何回迎えに来たら、素直になってくれるかな?








不意打ちキラースマイル



 
ルルーシュとスザク
@医局





「あ、お疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ。」

「落ち着きましたか?」

「あぁ。15分だけ仮眠とるから起こしてくれ。」

「はい。」

そう言ってばたん、とソファに倒れ込んだのは我らが外科医の若きエース、ルルーシュ先生。まだ25才だっていうのに、彼はこの病院で一番頼りになる存在と言っても過言ではない。

「毎日大変だなぁ。」

僕はこの病院の看護士をしている。忙しくて嫌になる時もあるけれど、ルルーシュ先生を見ているとまだまだ頑張らなくちゃという気になる。
僕らとは違って、なんせ彼には代わりがいないのだ。そう、彼程の腕を持った人にはこの病院にはいない。いや、全国探してもいるかどうか。その分きっと、相当なプレッシャーだと思う。

「…ん」

少しでもゆっくり休んでほしいな。寝返りを打った先生に毛布をかけていると、自分も何だかうとうとしてきた。少しだけと言い聞かせて目を閉じたのだけど、あっという間に時間は過ぎて、気付いたら15分が経ってしまっていた。

「うわ!先生!起きて下さい!もう時間ですよー!」

「…ん、あぁ、ありがとう。」

「あ、跡ついてますよ。ちゃんと顔洗って下さいね。はい、これタオルです。」

「…あ、うん。」

「…なんですか?ちゃんと洗ってありますよ?」

タオルと僕を交互に見て、何やら驚いている様子のルルーシュ先生。と思ったら、今度はくすりと笑みをこぼした。

「なんか、いいな。こういうの。」

「はい?」

「みんなが結婚する意味が分かった気がする。」

「…はぁ。」

「今度から休みに来るのは枢木がいる時にしよう。」

それから頭をぽんと撫でられた僕。
うわ、何それ、反則だよ。先ほどの優しい笑顔が、頭から離れない。
もう仕事に戻らなきゃって分かってるのに、真っ赤になって暫くその場から動けなかった。







不意打ちキラースマイル




どうしよ、まさか先生と、なんて夢見ちゃうじゃないか…!








***
遠い昔に拍手に載せてたやーつです。

Out Of Love




スザクとルルーシュ








いつからか、窓際で頬杖をつきながらつまらなさそうに欠伸をしているルルーシュを眺めるのが日課になっていた。
教科書さえ読んでいれば、授業なんて必要無い。
これが彼の口癖。
生憎成績があまり思わしくない僕には分からないけれど、ルルーシュはいつも呆れたようにそう言っている。

言うだけあって成績は優秀。多分学年で、いや、学校で1番。
しかも容姿端麗でおまけに生徒会副会長と言うオプション付き。
モテないはずがなかった。
勿論ルルーシュの幼なじみとしてずっと一緒に過ごして来た僕も例外では無い。
大人びているところもあるけどちょっと鈍臭くて、実は家事が得意で妹さんをとても大切にしているルルーシュ。
ダメダメな僕にも優しく笑いかけてくれて、スザクがいるから授業はつまらなくても学校には来るよと言ってくれる可愛い可愛いルルーシュ。

好きにならないはずが、なかった。





Out Of Love





「ルルーシュ帰ろ?」

一人生徒会室に残っていたルルーシュに声をかける。
いつもならこの時間には全ての仕事を片付け終わってきちんと整理整頓が施されているはずなのに、今日は何故だかまだ机に沢山の書類が広がっていた。

「珍しいね、ルルーシュがてこずるなんて。」

何か大変な仕事なの?手伝おうか?
そう言おうとした僕を、ルルーシュは綺麗な紫色の瞳で真っ直ぐに見つめた。

「…どうか、した?」

「い、いや、あの…」

どぎまぎしながらも何とかそう返せば、ルルーシュは暫く考えた後おずおずと口を開く。

「実は、さ…」

「うん?」

「…さっきジノに、告白された。」

瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。ルルーシュが告白されるなんて日常茶飯事だけれど、わざわざ僕に、しかもこんなに戸惑いながら報告してくるなんて初めてだったから。
だってもしかして、ジノのこと…?
必死に言葉を探す。上手い言葉が出てこない。
ルルーシュはこう見えて恋愛には結構奥手だ。今までだって恋人はいたことないし、だから何時だって僕たちは一緒だった。どんな時だってルルーシュの隣にいるのは僕なんだと思っていた。それが例え、親友としての位置付けでも構わない。
それでも何時かは誰かと結婚して、幸せな家庭を築いてほしいとちゃんと考えていたつもりだった。
男の僕じゃ、そんな幸せを与えてあげることは出来ないことは分かっていたから。
でもまさか、その時がこんなに早くくるだなんて思ってなかった。いや、むしろ遅い方なのかもしれないけれど。

「スザク…?」

。君が好きなんだ。愛してるんだ。男のジノでいいって言うんなら、なら僕だっていいでしょう?僕だってこんなに君を必要としているんだ。こんなにも君を想っているんだ。君以外は何にも要らないんだよ。

だけどルルーシュはちゃんと、ちゃんとジノだから好きなんだと、誰でもいいだなんて思うような人じゃないと、そんなことは僕が1番分かっているはずなのに渦巻く思考を止めることが出来ない。

「…あの、」

ルルーシュが不安げに瞳を伏せた。僕に背中を押してほしいんだとは分かっていても、頑張れだなんて絶対言いたくない。それくらいなら正直に僕も君が好きなんだと一言伝えて、それで綺麗サッパリこの気持ちとサヨナラするのはどうだろうか。17年間供にしてきたけれど、それももう清算しよう。それで、新しく一歩を踏み出そう。勇気の無い自分にはもうほとほと嫌気がさしたんだから。
意を決してルルーシュの肩を掴むと、ルルーシュがゆっくりと顔を上げた。心なしか頬が紅潮している気がする。きっとジノのことを考えていたのだろうと思っても、それでも君は本当に、本当に綺麗だね。

「…僕は君が、えと、君、が」

「スザク…?」

「えっとだからあの、君が、君が…思うように…君の、好きなようにすればいいと思うよ。」

ルルーシュはそうかと言ってまた少しだけ俯いた。どうやって返事をしようか迷っているのだろうか。
僕はそれでも必死に笑顔を守っている自分が、本当に、本当に、嫌いになりそうだった。



あぁ、また、可哀相な僕の気持ちはいつまでもここに取り残される。
何時まで足踏みをしたら、僕はスタートを切ることが出来るんだろうか。







***

いつからかスザクと一緒にいる時間を掛け替えのない、とても大切な時間と感じるようになっていた。

おはよう、って、真ん丸の翡翠の瞳を細めてにっこり笑うスザク。
ちょっと空気が読めないところもあるけれど、それすらも愛しい。誰にでも分け隔て無く優しくて、周りに気遣いが出来て。おまけにスポーツは万能、学年で、いや、きっと本気を出せばもっともっと上を目指せるんじゃないかと思うくらいだ。今までだって、沢山沢山守られた。これからも、ずっと一緒に居てほしい。
スザクがいるから学校に行くよと言った俺に、じゃあ毎日迎えに行くからと満面の笑みで応えてくれた優しい優しいスザク。

好きにならないはずが、なかった。











今朝、ジノに告白された。
別に何とも思わなかったから断ろうとしたのだけれど、返事はもう少し後にしてほしいと言われその場を立ち去られてしまったのでは仕方が無い。

俺はスザクが好きだから、他のどんな人から告白されてもそれに応える気は無かった。
だからスザクに彼女がいないのは俺にとって大変喜ばしいことだったし、暫くこのまま隣を独占していられると思っていた。
だからリヴァルからスザクには好きな人がいるらしいと聞いた時、俺は本当に焦った。いつものポーカーフェイスなんて、たちまちどこかへ行ってしまう程に。
聞けば直接聞いた訳では無いらしいが、スザクにその手の話を振った時の反応を見るとかなり怪しいということだ。
普段なら何をそんな根拠の無い話を。そう言って終わらせるところなのだが、スザクのこととなるとどうもそうは行かない。
わしゃわしゃと頭を掻きむしり、一つ溜息をつく。正直生徒会の仕事なんて全く手につかない。
暫くうんうん唸っていたら、もうすぐスザクが迎えに来てくれる時間になっていた。
冷静な顔で話をすることが出来るのだろうかと不安になる。
ルルーシュ、僕、恋人が出来たんだ。いつかそう言われる覚悟はしていたつもりだったのに。

でも、だけど。叶わないと分かっていてもいつかはこの気持ちを伝えようと、伝えたいと思っていた。
スザクの恋を邪魔する気なんてさらさら無い。でもだって、好きなんだ。こんなにこんなに好きなんだから、伝えるくらいは許されるのではないだろうか。
だから、このまま手を拱いて見ているくらいなら、少しくらいは頑張ってみようと思ったんだ。

「…さっきジノに、告白された。」

迎えに来てくれたスザクに戸惑いながらもそう告げる。驚いているのか、スザクは真ん丸い目をぱちくりさせていた。
スザクがこれを聞いて一体どんな反応をするのか、ズルい俺はそんなことを考えた。
しかし暫く経っても何の反応も無いので、緊張でどうにかなってしまいそうだ。

「スザク…?」

スザクは黙ったまま動かない。これは、どう受けとったらいいのだろうかと必死に考えるも、沈黙が続けば続くほど不安が募った。

「…あの、」

何か言おうとしたのだけれどあんまりに近くにスザクの顔があって、俺は思わず下を向いてしまう。
近くで見たら、本当にますます格好よくて。
いつか誰かに取られてしまうと思うと怖かった。やっぱり、俺はお前が。

気付くとがっちりと肩を捕まれ、驚いて顔を上げる。こんなに近くにスザクの温もりを感じて、自然に頬が紅潮した。
スザクが何とも言えない表情で俺を見ていて、しかも眉は不安そうに垂れ下がっている。
もしかしたら、もしかしたらスザクも俺を。

「…僕は君が、えと、君、が」

「スザク…?」

「えっとだからあの、君が、君が…思うように…君の、好きなようにすればいいと思うよ。」

そんな淡い期待は、直ぐに溶けて無くなった。

涙が落ちて来そうで、思わず下を向く。
おかしいな。いつもなら、もっと上手くやれるはずなのに。

「ルルーシュ、仕事残ってるみたいだし、僕先に帰るね?頑張って。」

顔を上げて、何とかこくんと頷いた。
お前の笑顔は、時に酷く残酷だ。







****
「スザクー!何やってんだ?」

放課後、ぼんやりと窓の外を眺めているとジノに思い切り背中をどつかれた。

「別に。ちょっと考え事。」

「珍しいな、スザクがそんな深刻な顔して悩んでるの。」

「…まぁ、ちょっとね。」

相変わらず僕の肩を掴んでいるその手を、本当は今すぐにでも振り払ってしまいたかった。
無邪気に笑うジノが羨ましくて、妬ましくて。
ルルーシュはきっと彼の告白を受けるだろう。だって、わざわざ僕に報告して来たぐらいなんだから。


「僕、帰るから。」

「ルルーシュ先輩を待ってなくていいのかい?」

ジノの口からルルーシュの名前が出た瞬間、頭に血が上りそうになるのを必死に堪えて僕は教室を後にした。





帰り道をのんびり歩く。一人で歩くその道は、なんだかやけに静かだった。

これから一体どうしたらいいんだろう。
とは言っても元々告白する勇気すら無かったんだから、どうするもこうするも無いのだけれど。

それでもルルーシュの顔を見るのは辛かった。彼の隣を歩くのは何時だって僕であると、いつの間にかそんな風に自惚れていた自分がどうしようもなく情けなくて泣きたくなる。

「あらスザク!ルルーシュは一緒じゃないんですか?珍しいですね!」

後ろからぽんと肩を叩かれ振り向くと、ふんわりと華みたいに笑うユフィの姿があった。

「うん、今日はルルーシュ遅くなるかもしれないからさ。」

「いつも待っているじゃありませんか。何かあったんですか?」

「ううん、たいしたことじゃないんだ。…たいしたことじゃ。」

「ならいいんですけど。ほらスザク、スマイルスマイル!」

そう言ってユフィはまた笑った。きっと何かあったのだろうとユフィには分かっているんだと思う。
それでも深く追求せずに懸命に僕を励まそうとしてくれる彼女の気持ちが嬉しくて、だから僕もほんのちょっとだけ笑顔を取り戻すことが出来たんだ。









***
あれから残りの仕事を片付ける気にもならず、さっさと書類を整理して生徒会室を後にした。
ちゃんと仕事をしなかった罰なのかな。変な期待を抱いた俺に、反省しろと言いたいのかな。
今もまだ頑張って仕事をしていたら、そしたらこんなシーン、きっと見なくてすんだはずなのに。




桃色の髪をなびかせ笑う彼女はとても魅力的だ。おっとりとしていて、いつも皆のことを考えていて。

スザクも笑っていた。二人で、笑っていた。

スザクの好きな人は多分ユフィなのだと得体の知れない確信を得た俺はその場に立ち尽くすことしか出来ない。
ユフィは可愛い。優しい。
いつも自信過剰な俺だけれど、学園のマドンナである彼女と競って勝てる等とは毛頭思っていない。まず同じ土俵に上がることすら出来ないのだから、当たり前の話だが。
彼女は恋愛対象、俺は親友。どう頑張ったって勝てる訳が無い。

へたりこみ、崩れ落ちそうになった俺の腕をふいに誰かが掴んだ。

「ルルーシュ先輩、大丈夫?」

「…ジ、ノ?」

驚いて顔を上げると、目の前にはジノが立っていた。彼は俺を支えてしっかり立たせてくれて、それからにっこり微笑んだ。

「危なっかしいから、ほって置けないな。」

「…悪かった。ありがとう。」

「そんなに、そんなにスザクが好きなの?」

「え?」

「先輩がスザクを見てる時、私だっていつも先輩を見てたんだ。気付かない訳が無い。」

驚いている俺に、ジノは優しく諭すように続けた。

「返事後でって言ったのは、知ってたからなんです。断られるのは最初から分かってました。返事、聞かせてもらえますか?」

「何で…何でだ?」

訳が分からない。ジノの強い瞳を見つめ、問い詰めるように言った。

「何で叶わないと分かってて、だって…怖くないのか?」

嫌われるかもしれない。二度と話すことが出来なくなるかもしれない。気持ち悪いと思われるかもしれない。
そんな気持ちばかりが先行して、俺は結局何も出来なかった。

「先輩はさ、私のこと嫌いになった?」

「そんなわけ!」

「でしょ?先輩がそんな人間だったら好きになってないよ。もうちょっと信用してやってもいいんじゃない?アイツのこと。」

ジノは優しく笑った。本当に、綺麗に。
そうか、そうかもしれない。スザクがそんな人だったら、きっと好きになってなんかなかった。優しいお前のことだから、ちょっと困ったように笑いながらごめんねって言ってくれるかな。

「…行くよ、俺も、お前みたいに笑いたいから。ごめん。俺は、俺はスザクが好きなんだ。」

「…はい。めちゃめちゃ不本意ですけど、頑張って下さいね!」

私は貴方の笑顔に惚れたんですから。
そう言って、ジノはひらりと手を振って歩いて行った。
なんて強い、大きな背中なんだろう。
ありがとう。好きになってくれて、本当にありがとう。
いつかはあんな風になれるといいななんて思いながら、流れる涙を必死に拭った。







***
「スザク、ちょっといいかな。」

翌日、気を使ってわざと一人で帰ろうとしていた僕を何故かルルーシュは呼び止めた。

「…僕に遠慮なんかしなくていいんだよ?だから、ジノと帰りなよ。」

語尾が冷たくなったのが自分でもよく分かった。目の前のルルーシュも不安げに僕を見つめている。それでもどうしようもなかった。どうすることも出来なかった。

「じゃあ、僕帰るね。」

精一杯の笑顔を繕って再び歩き出す。本当はルルーシュと話をしたい。一緒にいたい。
でもそう思う度頭の中にジノの顔がちらついて、たまらない気持ちになった。
ルルーシュは少なくとも友達として僕を好きでいてくてれいるだろうことは分かっていても、そう簡単に気持ちを切り替えることは難しい。

「スザクは俺のこと…嫌いか?」

ぽつりと、ルルーシュが呟いた。
僕は驚いて歩を止める。

「嫌いならそう言ってくれ。そしたらもう、話しかけたりしないから。」

ゆっくりと深呼吸をしながら振り返る。もう、話しかけない、か。もしかしたらその方がいいのかもしれない。嘘の笑顔で一緒にいる人間を、友達とは呼べないだろうから。

気づけばルルーシュは僕の目の前に立っていた。紫色の綺麗な瞳が真っ直ぐに僕を捉える。
頭がくらりとした。ルルーシュ。ルルーシュ。ルルーシュ。
分かってた。最初から分かってたんだ。嫌いだなんて、口が裂けても言える訳がないじゃないか。

「スザクが、ユフィを好きなことは分かってるけど…」

だからその言葉を聞いた時、僕は本当に驚いて、それでもってその誤解がもの凄く気に入らなくて、気付いたら声を大にして叫んでいたんだ。

「何言ってんの…!?僕が好きなのはユフィじゃない!」

次の瞬間、僕はルルーシュを引き寄せ力いっぱい思いっきり抱きしめた。

「僕は…僕が好きなのは…!」

「ス、ザク…?」

言いかけて、ルルーシュの声が聞こえてきたことではっと我に帰った僕は慌ててその手を離す。

「…ごめん。君にはジノがいるのに。ごめん。」

理解ができないとでも言うような、キョトンとした表情のルルーシュ。
それはそうだろう。突然こんなことされて、訳が分からないに決まってる。

「ごめんね、本当にごめんねルルーシュ。もう話しかけたりとかしないからさ。」

だから、幸せにね。
ちょっと迷って、最後にそう付け加えた。上手く言えただろうか。ちゃんと笑えてるだろうか。これ以上ここにいたらなんだか涙が溢れて来そうで、今度こそ立ち去ろうとした僕の腕を、しかし何故かルルーシュが掴んでいた。

「ルルーシュ…?」

「嫌いなのか?俺のこと、嫌いなのか?」

僕は言葉を詰まらせた。やっぱり、嫌いだなんて言える訳が無い。あんなことして、それでもまだ僕を許そうとしてくれるだなんて本当に君は優しいんだね。幸せになってほしい。だから、首だけこくんと前に倒した。

「…嘘つき。」

すると何故かルルーシュは、僕の胸にゆっくりとその整った綺麗な顔を埋めた。目が合って、にっこり笑って。
次の瞬間、優しく触れあった唇。

「お前の嘘なんか、俺には分かるんだよバカ。」

涙を流しながら、ルルーシュはそれはそれは美しく微笑んだ。

「でも、バカなくせに優しいから、隠すから、今回ばっかりは本当に無理かとおも…!」

泣きながら叫ぶルルーシュを、本能のまま両腕で思いきり抱きしめる。あったかい。いい匂いがする。
ルルーシュの、匂いがする。

「スザク?」

「夢じゃない。」

「え?」

「夢じゃ、ない…。」

当たり前だろって言いながら、ルルーシュは僕の腕の中で笑っていた。
それから急に真剣な表情になったかと思うとゆっくりと体を離されて、少し名残惜しかったけれど僕も抱きしめていた手を緩めた。
それからルルーシュは僕を見つめて、ゆっくりと口を開く。

「…あのさ、ジノの告白は最初から断るつもりだったんだ。だって俺は、ずっと前からスザクが好きだから。」

試すようなことをして本当に悪かったと、ルルーシュは不安げに瞳を揺らしている。
そう、だったのか。試されているだなんてそんなこと、単純な僕は考えもしなかった。同時に、ルルーシュも僕の一挙一動に心を揺らしていたのかと思うと、とてつもなく嬉しくなる。
君も僕と同じだったんだね。ちょっと不器用で、自分の気持ちを伝えるのが怖くて。

「…ううん。ルルーシュは悪くないよ。僕が、素直になれなかったから。」

受け身でばかりいるのはもうダメなんだ。だから、今度こそ伝えなければいけない。意を決してルルーシュの方を向く。
昨日は言えなかったけど、でも。

「僕はルルーシュを、愛してるんだ。だから、これからも僕と一緒にいてくれる…?」

「…俺も、俺もスザクじゃないとダメなんだ。」

久しぶりに見れたルルーシュの笑顔。
ゆっくりと顔を近付ければ、瞼を閉じてふるふると長い睫毛を震わせているルルーシュ。可愛い。好き
。大好き。
さっきはあんまりに突然でよく分からなかったので、今度は僕から、その柔らかい感触を確かめるように、優しく唇を重ねた。

君と僕が全部





三橋と阿部







「阿部くん、へいき?」

「あぁ、多分…」

練習中、初めて熱中症、と思しき症状になった。三橋にいつも煩く注意しているくせに、情けないったらありゃしない。

「先生今、氷とか、いろいろ、あの…!」

「あー分かった分かった。ワリーな。」

再三断ったのだがどうしてもついてくると聞かずに、三橋は保健室まで肩を貸してくれた。いくら体調が悪いとは言え大事な投手の肩を借りるなんてどうかしてると自分でも思う。

「あー、ありがとな。後は大丈夫だからお前は練習戻れ。」

「うん、でもオレ、阿部くん心配、だ。」

一応昼休憩中ではあるのだが、三橋はなかなかその場を動こうとしない。
心配してくれている事が嬉しく、同時に少し切なかった。きっと三橋にとって俺はただの捕手。俺のリードが無いと投げられないから、俺がいないとエースでいられないから、だから。

自分で想像して、虚しくなって。その内頭が回らなくなって、考えることをやめた。
一緒に野球が出来れば充分だと、何回考えたことだろう。これ以上はバチが当たる。

「本当に、へいき?俺、阿部くん具合悪いと、心配だ。」

言いながら、三橋が俺の額にそっと手を添えた。瞬間、余計に体温が跳ね上がる。
 
「や、めろよ。」

「あ!ごめ、おれ、その、つい…!」

急な行動に驚いて手を払うと、三橋が怯えた様に目を伏せた。あぁ、また怖がらせてしまったかな。

「こ、こわかった。」

あぁ、やっぱり。自分で自分が嫌になる。泣いてたまるか、とこめかみに力を込めると、頭痛がさらに強まった。

「阿部くん、倒れた時、すごいこわくて。俺、その、阿部くんすごく、大事なんだ。」

気付けば泣いているのは三橋の方で。
いつもは合わない視線が、真っ直ぐに交わる。

「俺、そばにいたい、ずっと。」

「ずっと、か。俺が野球、やめても?」

ばかみたいな質問をした自覚はある。こんなこと聞いても仕方ない事は分かってる。

「あたりまえ、だ!ずっと、一緒にいてほしい。野球やめても、大人になっても、あの、お、おじいちゃんになっても!」

だけど、食い気味に予想とは違う答えが返ってきて、俺はゆっくりとベッドから起き上がった。

「それ、本気で言ってんの…?」

半信半疑の問いに、三橋がこくん、と強く頷いた。マウンドで、サインの返事をくれる時のように、はっきりと。

「阿部くん。好き、だ。」

三橋がゆっくりと、壊物に触れるように、俺の頬に手を添える。頭がふわふわして、夢を見ているのかと思う。今度は、振り払う事はしなかった。

「…俺もお前が好きだよ。」

三橋の手に自分のそれを重ねれば、出会った時と逆だ、と三橋が照れながら笑った。
そいや先に告白したのは俺だったなと、つられて笑った。

ー投手としてじゃなくても、俺はお前が好きだよ。

あの時はこんな気持ちになるなんて、微塵も思ってなかったけど。

「先生、遅い、ね。大丈夫?」

「うん、お前の手冷たくて気持ちいーから、このままにしてて。」

三橋の手を借りたまま再びゆっくりベッドに横になる。三橋は周りをキョロキョロ見回してから、俺の唇にそっと自分のそれを重ねて、優しく、それはそれは嬉しそうに笑った。




君と僕が全部



慌てて飛び出した保健医は校内中を奔走しているのかなかなか戻ってこない。

もう暫く2人きりにさせてほしいなんて、熱に浮かれながらそんな事を思った。






もう一度生まれたから




スザクとルルーシュ







朝起きて、まだ、夢を見ているのかと思った。

「どうして君がここにいるの…?」

ルルーシュだ。C.Cと旅立ったはずのルルーシュがここにいる。にわかには信じ難い。

「あぁ、ナナリーに頼んで入れてもらった。」

「え、そんなしれっと?」

彼の話では、夕べ思い立って急に帰ってくる事にしたらしい。これ、もし偽物だったりなんかしたらどうするんだろ。少しだけセキュリティが心配になった。だって僕の事って控えめに言っても国の重要機密事項だと思うんだけど。

「疑ってるのか?」

「いや、その、ただ信じられないだけで」

「…お前が、俺を間違える訳ないだろう?」

悔しいけどその通りで、ぐうの音も出なかった。
ナナリーが、僕が、君を間違えるなんてこと、絶対に無い。

「…急にどうしたの?」

もう、会えないと思っていた。覚悟していた。
だけど、その言葉は口に出すことはしなかった。

「今日は何月何日だ?」

「今日は7月10日だけど…、それがどうかした?」

「お前は、自分の誕生日も覚えてないのか?」

お前と言われて一瞬誰の事か分からなかった。もう長い事ゼロとして生きているから、ルルーシュにそう言われて、久しぶりに自分が枢木スザクだった時代を思い出した。

「…僕はもう、死んだから。」

自嘲気味に笑えば、ルルーシュは大袈裟にため息をつく。

「そう言うだろうなとは思ってた。俺が勝手に祝いたいだけだ。」

「ルルーシュ」

「スザク、生まれてきてくれてありがとう。例え枢木スザクがこの世にいないとしても、俺は毎年、永遠にこの言葉を捧げ続けるよ。」

言い様、ルルーシュは僕の手を取り妖艶に笑った。
どうしていつも君は、僕のほしい言葉をくれるんだろう。
懐かしいルルーシュの温もりに、自然と涙が溢れてくる。

「…僕が生まれてきた事に、意味はあったのかな。」

「あった。少なくとも俺には。」

「君に、は?」

「お前に出会えて、俺は幸せだった。初めて、人を好きだと思った。」

たまらなくなって、握っていた手を思わず引き寄せた。
ルルーシュは珍しく抵抗もせず、すっぽりと僕の腕の中に納まっている。

昔は離れろ!だの、バカ力!だの、よく怒られたけど。

「ルルーシュ、愛してるよ。」

「…知ってる。」

そう、君に出会って初めて、僕の時計は動き出した。
だから、僕の時計を止めるのも、君であってほしいと、そう願っていた。

「最後に僕を選んでくれてありがとう。僕は、幸せだ。」

君の為に、僕はこれからもゼロであり続ける。生ある限り、ナナリーの傍にいる。
抱きしめていた腕の力を緩め、ルルーシュの顔を見つめる。
どちらからともなく唇を重ね、何度も何度もお互いの存在を確かめるかの様にキスを交わした。

「…約束があるから、俺はもう行かないと。ただ、これだけは忘れないでほしい。」

もう、会えないのかもしれないと思った。でもやっぱり、その言葉を口に出す事はしなかった。

「お前は、俺の全てだ。」

どうやって返事をしたかは覚えていない。
ただただ涙が溢れて止まらなかった。
君と生きていけたら。君の隣に入れたら。君を支えられたら。
そんな事を何度思ったか分からない。だけど、僕はきっと、これからもここで生きていくのだろう。




もう一度生まれたから

君に止められたはずの時間を、君の為に、これからも刻んでいく。








※※
スザクさんHAPPY BIRTHDAY!!!!
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