益者三傑
[2017.6.11
22:00 Sun]
■ヴァン+ナギ+瑛一(妖精シリーズ01)
■
ーーー恋する人と食べるデザートは格別甘く感じるだろう?
それはね、「夜の楽園」からやってきた妖精が、「月の蜜」をかけてくれるからなんだって。
これは、その妖精の物語…。
episode 1 夜の楽園
「よーし、今日もええ仕事したわ!」
「ヴァンおつかれ〜!春は恋の季節…あ〜ぁ、ナギたちも大忙しだね」
人間界から夜の楽園に帰ってくるなり、妖精のヴァンは背伸びをする。受け答えたのは近くで休憩していたナギ。
この夜の楽園では、常に空に下弦の月が浮かんでいる。その月から滴る、通称「月の蜜」は、楽園の大きな祭壇を伝い落ち、泉を作る。用途ごとに別れた蛇口から出るその蜜を、妖精たちがすくい取って人間界で使用するのだ。ヴァンと呼ばれた妖精が使ったのは「恋の蜜」。ここにいる7人の妖精すべてが使うことを許された、もっとも使用頻度の高い蜜である。
「ナギも『恋』で出よった?」
「今日はね、『不幸』だよ」
「他人の不幸は蜜の味…やね」
「『恋』が増えるとこういうのも増えるの!まったく、ニンゲンって分からないよね」
ナギは新米ながら『恋』と『不幸』の2つの蜜を扱うことが許されていた。他の5人も『恋』以外に何かしら担当を持っている。『恋』専門というのはヴァンだけだった。
「前から思ってたんだけどぉ、泉のヴァンの蛇口って1つじゃないよね。昔は何やってたの?なんで『恋』専門に?」
泉のヴァンの蛇口が、1つ使用出来ないようになっていたのが、新米のナギには純粋に疑問のようで。
「え…と…はは、なんでやったかなぁ。歳かな?思い出せへんわ」
「言いたくないならそう言えば?」
ナギに詰め寄られながらも、ヴァンは心の中の昔の記憶が、靄がかるというより、からっぽであることに嫌な焦りを感じていた。
「いや、言いたくないというか、そのやな」
「歯切れ悪〜い」
「ナギ!ちょっといいか?」
「瑛一…うん、すぐ行く〜」
リーダーの瑛一に呼ばれて去ったナギの後ろ姿を見送りながら、ヴァンは騒ぐ胸を落ち着かせるように深呼吸した。
「瑛一、何?」
「その、お前は知らないと思うが、ヴァンには過去の記憶が無い」
「え…そうなの?」
「お前も言っていた、もう1つの蜜…それでヴァンは失敗をして記憶を失った。本人は前後の記憶が無いようだ」
その蜜は、長ったらしい名前なので通称『秘蜜』という。ニンゲンが、他者を愚弄してか慮ってか…理由はともあれ、他人を思って口を閉ざす時、隠し味として使われる蜜。その秘め事が良いものであれ悪いものであれ…その善悪も立場次第だが…秘め事をしているニンゲンは食事を楽しむどころではなくなる。1枚ヴェールを通したような味覚に覚えがあるニンゲンもいるのではなかろうか。
「たまに、俺達を視ることが出来るニンゲンがいる。ヴァンは、ニンゲンに肩入れしすぎた。天に仕える、神聖な俺達には許されないことだ。ニンゲンが救われた代わりに、ヴァンは記憶を失う宿命を背負った」
「掟に叛いてまで…?そんなの普通じゃないよね」
「詳しいことは分からない…だが、思いやりに溢れた秘密を持ったまま、そのニンゲンは死にゆく心づもりだったらしく…ヴァンは相手に最期を知らせたようだ」
「そんなの…放っておけば、いいのに…」
ショックというよりかは衝撃という方がしっくりくる、それが原因でナギが口篭る。
「そして、ヴァンの記憶は現在もすこしずつ蝕まれている…」
いつかは、自分が誰かも分からなくなって、自我が崩壊するだろう。
瑛一の言葉にナギは今度こそ言葉を失い、夜の楽園に月の蜜が雫となって落ちる音が、いやに響いた。
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#のろいをかけられた
shindanmaker.com/628920
この診断の結果を参考にしています。
170610〜170611
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