冷たい人、と思った。
私がどんなに他所で男を作っても、怒ることなく嘆くでもなく、いつも通りに接してくる。
私のわかりやすい嘘をわかっていて放ったらかしているのがわかる。
あなたの優しさは美しくて冷淡だ。
いっそのこと叱ってくれたら、憤慨してくれたら。我儘を承知で私は思う。
でも、それなら別れを切り出されるまで私は夜遊びを続けるまでだ。
あなたの美しいほどの「おかえり」は私を殺す。その冷たい刃で。
その美しさは例えるなら氷河。
それがある種の快感になりつつあることは、彼には秘密だ。
彼女が他の男に現を抜かしているのは知っていた。
定期的に遅くなる帰り。
知らない香水の香り。
なにより嘘をつくのが下手な彼女の見え見えな言い訳。
それでも手放せない。
手放したくない。
友達や上司には「そんな彼女やめておけ、もっといい女はたくさんいる。」と言われるが俺にはそう思えない。
どんなに素行が悪くても、どんなに俺への愛が冷めていても、俺は彼女が好きだから。
切り捨てられるまで足掻こう。
もうたくさんだと言われるまでしがみつこう。
それくらい俺は彼女に夢中。
それくらい俺は辛抱強い。
それくらい、彼女は魅力的なのだ。
今日もいつもより遅い帰り。
なんと言い訳されるのだろうか。