私は今日、伊賀上野に行きました。
私の本籍がそこにあり、父が昨日、一緒に酒を飲みながら、「戸籍謄本ぐらいは郵送でなく、年休を使って取りに行け」と言ったからです。
流石に年休をこれ以上使うのは無理なので、日曜日である今日しかないからと。
今考えれば馬鹿馬鹿しいことです。
しかし、巧みな誘導でした。
話の始まりは、唐突に(私たちが良く知る)「金山のOという店が潰れた」という話でした。
私の卒業校や、かつて住んでいた家が廃校・合併・取り壊しなどで無くなっていることがネタになりました。
父はよくそれをネタにしますので、内心うぜーと思いながらも聞いていました。
まず、婚姻届の証人欄に署名をしてもらったのですが、やけにノリノリでした。
その時点でもう悪だくみを考えていたのでしょう。
「本当なら仲人が書くもので、自分は実物(大学の先生)を連れて手続きに行ったんだ」
と言いながら。
そして、戸籍謄本を郵送で取り寄せる話になった時、同居人の本籍地が志摩なので、上野と一緒に新婚旅行を兼ねて休みを取って行けとか言い出したのです。
ご存知の人もいるかもしれませんが、去年、プレ新婚旅行で伊勢志摩方面には行っていましたので、ものすごく気乗りがしませんでした。
なので、休みは取れないし、(戸籍謄本の手続きが出来る)平日にも行けないと二人して渋っていると、妥協案として形だけでも上野に行って来いとのこと。
墓は遠いので、行かなくていいと言っていました。
しかも、案内役は、地理に疎い私。
どうなることか全く分かりませんでした。
何せ、父が話した通り、群馬と栃木の藤岡インターを取り違える私です(あの時はひどい目に遭った。二つも藤岡があるとは知らなかった)。
そして、幾つかの行き方を紹介する父。
鉄道を使って行く方法。
バスを使って行く方法。
電車を使うなら上野市駅で降りて南下、バスなら「産業会館」を目印にしろと。
車で行くことはお勧めしないと何故か言われました。
我々は車で行きました。
市役所はすぐに見つかり、戸籍謄本は取れませんでした。
そんなことは分かっていたので、父の真意を知ろうと南下を始める我々。
しかし、何も馴染みのものは見当たりません。
マップを見ても、よく分かりません。
しょうがないので私が少しだけ覚えている「産業会館」をマップで探し、来た道を戻って行きました。
すると、マップにはあるのに、産業会館はありませんでした。
その場所は、小じんまりとした駐車場。
代わりにその向かいに、やけに立派な建物がありました。
何度か、目の前の光景とマップを見比べ……
徐々に腹が立って来ました。
そういえば彼は言っていました。
「行けば思い出になる。」
何の事だか全てを理解しました。
Oという店の話。
仲人の話。
そしてなぜ、休日に上野に行かせたのか。
全てが繋がりました。
何て出来のいい話だろう。
私は上野城で無双をしたくなりましたが、最上階で中ボスは待っていませんでした。
帰りの車中、脱力しながら助手席に座っていると、母から電話がかかって来ました。
「意味が分からない」と言われました。
かいつまんで事情を説明しました。
馬鹿とか言われましたが、私も馬鹿だと思ったので最初は断ったと言いました。
母が言うには、
・先生が一緒に行ったのは事実だが、片方の先生の名前は思い出せない。
・(父は、母は上野には一回しか行っていないと言ったが)上野には、二・三回行った。
とのことでした。
戸籍謄本の郵送による取り寄せは延びてしまいました。
駅前の喫茶店は、変わらず迎えてくれました。
いつか、電車を待つ時に立ち寄ったあの店でした。
窓から見える景色は、全く違うのに、紛れもなく同じでした。
そこは確かに私の知る上野でした。