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我が征く道は132

ギルガメッシュは、ハッ、とどこか愉快そうに笑う。
「何故我がそのようなことをしなければならん」
「っは〜〜〜偉そうに言いよるわこのド金ピカが」
軽口を叩いてはいるが、サーヴァント二人を投入してきたことを考えても言峰は本気で凪子を始末しようとしているようだし、悲しいかなサーヴァントの方もそれなりにやる気で来ているらしい。逃げることは難しいだろう。
あちらも凪子がただの人間ではないと分かっているからか、凪子の出方を伺っているようだ。凪子ははぁ、と小さくため息をつき、ごそ、と手を突っ込んでいたポケットのなかを探った。幸いにして、待機時間に暇潰しでつくっていたルーン石用の小石があった。
「…サーヴァントの共闘が見られるってのは喜ばしいんだが、いやはや標的が私とはなぁ」
ポケットの中で石にライドのルーンを刻む。ライドのルーンは旅を意味する。そして眼科には海につながる川がある。水面は昔から境界線である場所だ。
いくら監督役自らの行動とはいえ、周囲に損害のでないように戦うのにはさすがに無理がある。さりとて、連続で固有結界を開くのはさすがに疲れる。
ならば、境界を越えた次元の狭間、別世界が手っ取り早い。分かりやすく言うなら、いわゆる裏世界を一時的に作り出すのだ。そこが一番、人の邪魔にも、また世界から邪魔されることもない場所になる。
「まぁ仕方ない。来たからにはお相手するけど…ここじゃ駄目だ、場所が悪――」
凪子の言葉が終わる前に、ランサーが動いた。踏み込むと同時に、槍を心臓めがけて突き出す。後ろに避けてもギルガメッシュがいるのだから、意味がない。
「!」
凪子はとん、と軽く横にとんだ。橋の上から、川に向けて躍り出たことになる。
「人の話は最後まで聞こうや!」
凪子はそう言って、ポケットの中のルーン石を川面へと投げつけた。ルーン石が触れたところから、パァァ、と薄い青い色の光を放ってルーンの刻まれた魔方陣が展開された。
「殺す気あるならついといで〜」
凪子は重力のままに落下しながら、僅かに驚いたように見下ろしている二人にそう言葉を投げ掛け、魔方陣の中へと落ちていった。
水面に落ちたはずだが水は跳ねず、凪子の姿はそのまま消えた。
「また面妖なことよな」
「…………」
「!」
ギルガメッシュはランサーを煽るかのようにそう言ったが、当のランサーはギルガメッシュなど気にもとめず、軽く欄干を蹴って頭からルーン陣へと飛び込んでいった。
ギルガメッシュはそんなランサーにつまらなそうに空を仰いだ後、帰る気もないのか、ランサーに続いて魔方陣へと飛び込んだ。
3人が入った後、魔方陣はひとりでに収束し、水面はまた静かな流れを取り戻していった。



 「………んだここ?」
ざばり、と水から出たランサーは独りでに呟いた。少し遅れて、ギルガメッシュも同様に水から出てくる。世界はどこかセピア色で、夕暮れのような明るさだった。
ランサーは槍で水面を叩き、その勢いで跳躍して空へと飛び上がり、橋の道路に着地する。
「…、……」
凪子は、橋の中央にいた。コートを脱いでたたみ、道路にそっと置いていた。
ランサーはギルガメッシュが上がってくるのを待たず、勢いよく道路を蹴った。凪子は鞄に仕込んであった短刀を引き抜いてルーンで強化すると、勢いよく突き出された槍を受けた。
ギリギリとぶつかった槍と短刀が鈍い音をたてる。
「…ッ」
―まさかランサーと戦うはめになるとは。
凪子はそう思いつつ、その口元は楽しそうに笑っていた。

我が征く道は131

「…全く。わざわざこんな東の外れまで来て取れたのは保証もない言質だけ…。無駄足もいいところだ」
「じゃあなんで引き受けたのさ。別によかったじゃん、わざわざロードが来なくても」
「………1つ、これも個人的に気になることがあったからな」
エルメロイは懐から葉巻を取り出そうとして、席が禁煙だったことに気がつき、またしまった。
そのままの体勢で顔をあげ、凪子の顔を見る。
「貴様の映像で、貴様の隣に金髪に赤眼の男がいただろう。あれは、誰だ」
「ただの金髪赤眼の男だよ」
「………ならいい」
――エルメロイが彼の言う通りに第四次の参戦者なら、ギルガメッシュを知っている可能性が高い。ギルガメッシュを庇うわけではないが、本当のことを教えたらそれはそれは面倒なことになりそうだったので、明言はしなかった。
エルメロイも確証はなかったのだろう、追求してくることはなかったので、凪子は内心、ほ、と胸を撫で下ろした。
「さて、じゃ、話はもういいよね。今の聖杯戦争について調べたいなら調べるといいけど、黒幕は手強いから気を付けなよ」
「…春風凪子。貴様は……何のために生きている」
よっこらせ、と立ち上がり、帰る意思を見せる凪子に、これが最後だと言わんばかりにエルメロイがそう問うた。凪子は、にっ、と小さく笑った。
「そんなことを聞きたがるのは人間だけだし、求めたがるのも人間だけだ。何のため、なんてその時々によって変わるもんだ。君が期待するような答えはないよ」
「…それもそうだな、失礼した。またどこかで会うこともあるかもしれんが、魔術協会に絡まれることに関しては諦めろ。いつの時代になっても、人は貴様を管理したがるだろうからな」
「ははっ、仕方ない。そういう傲慢さはいつまでたっても変わらないね、人間は。そんじゃ」
凪子はそれだけ言うと、ひらひら、と手を振って席から立ち去った。エルメロイは凪子が店を出るまでその背中を見送ったあと、はぁぁ、と深く息を吐き出してずるずると背凭れにもたれ掛かった。
「……死ぬかと思った………」



 アーネンエルベを出た後、凪子は新都をブラブラとし、夜には昨日と同じく橋の上で情勢を見守った。が、特に何も起こらないうちに、日が上り始めてしまった。
「…私は…かなしい………」
どこぞの騎士のような言葉が思わずこぼれる。寒さに震えたわりに収穫はなかったのだ、悲しくもなるだろう。
夜明けの太陽を見ながら立ち上がり、固まった体をほぐす。ホテルに帰って仮眠でもとろうか、と考えた時だ。
「―――ッ!?」
――不意に頭上から、二振りの剣が凪子めがけて降ってきた。凪子は狭い欄干の上を素早く、器用に跳躍し、それを避ける。
ガァン、と鈍い音をたてて欄干に突き刺さったその剣は、一瞬の間をおいて靄のようになって消えていった。
「…今の攻撃……」
コン、と金属と金属のぶつかる、小気味のいい音が背後からする。ほぼ直感で前方に腕の力で跳躍すれば、つい直前まで凪子がいたところに赤い槍が突き立てられた。
「……ランサー?」
「……………よォ」
欄外に刺さった赤い槍を緩慢に引き抜いたのは、ランサーその人であった。その顔は、今までになく不愉快そうに歪んでいる。
ガチャン、と金属が複数ぶつかり合う音に視線だけ後ろにやれば、黄金の鎧を身にまとい、前髪をあげたギルガメッシュの姿があった。
凪子は、すぅ、と目を細めた。ランサーがくるくると槍を回し、肩に担ぐ。
「いけすかねぇ。いけすかねぇ、が、マスターの命令だ。悪く思うなよ、見つかるヘマしたアンタのドジだ」
「……なるほど。あの坊やが通報したのか…。ていうか、アンタがバラしたってことはなかろうな?四次のアーチャー」
言峰が最後の手として隠し持っていたであろう―そして恐らくは、間桐の長男を利用するためにも使っていた―ギルガメッシュがランサーと共に現れた、というのは意外であったが、それで真名をばらしてしまうのも芸がないので、わざとらしく“四次のアーチャー”と呼び掛けた。

我が征く道は130

「確かに、信用はできん。だが、貴様が関与するつもりであったとして、我々にそれを止められるとも思えんしな」
「ほほう?分かってるじゃないの。あれか、一応制止は試みたという既成事実がほしいのか」
凪子は、にやっ、と笑ってフォークを置き、一緒に頼んでいたサンドイッチの皿に手を伸ばした。いくつかある中から卵と菜の花のサンドイッチを手に取り、ぱくり、と頬張る。
エルメロイは組んでいた手を、お手上げだ、と言わんばかりにあげ、肩を竦めた。
「そうとも言えるな。あとはまぁ、精々監督役に通報するくらいしかないな」
「うげぇ、それは嫌だな…正直あんまり関わりたくないんだよなぁ、できるだけ」
「…貴様は随分、聖杯戦争に関しては知っているようだが……すぐに聖杯戦争をあげた辺り、やはり目的は聖杯戦争か?」
「うん、観戦」
「はァ?」
それまで多少の表情の変化はあったものの、つとめて冷静に応対していたエルメロイの顔がポカンとしたような唖然としたような、どこか間の抜けた表情に変わった。完全に予想外の答えに、居をつかれたといったところだろうか。
凪子が思わずぷっ、と噴き出せば、エルメロイはすぐに不愉快そうな顔で凪子を睨んだ。弁明するように、凪子はヒラヒラと手を振る。
「まぁでも、向こうから喧嘩売られない限り、邪魔はしないよ。私のポリシーに反する。あと…余程のことがない限り、大聖杯の使い道にも関与しない」
「…………」
「まぁそれを信じるかどうかは君ら次第だ。でも、私がやることは、相手が一般人だろうが、魔術師だろうが、サーヴァントだろうが、敵対するなら相応の対応をするだけのこと。始末したのを教えてあげたのは、忘れた頃に定期的に教えてあげないと懸賞欲しさに来る馬鹿が増えちゃうでしょ?それだけのことだよ」
凪子はそう言って、今度はハムやレタスなどの入ったサラダサンドを口に放り込む。カラシマヨネーズがピリッと舌に走り、悪くない。
エルメロイは一応二人分のつもりで凪子が頼んだそれらの軽食には手をつけず、凪子をじ、と見ていた。
「……、そうか。ならいい。言質はとった」
「あの若造たちはどうでもいいのかい?」
「ふん、そんなことまで知ったことか。懸賞はかけられてはいるが、貴様の存在はそもそもグレーゾーンだ。そこまでの世話はやかん」
「おやおや。ま、いいけどね、私にとっちゃありがたいだけだ」
三つ目のカツサンドをさらに口に放り込む。染み込んだソースがこれまたおいしい。
エルメロイは少し冷えてしまった紅茶に口をつけ、しばらく考え込む様子を見せたあと、改めて凪子を見た。
「…ここからは私個人の私的関心に関する話だ。貴様はこの聖杯戦争、どう思う?」
「というと?」
「…私が参加したのは第四次だったが、今回のはどうにもキナ臭い臭いがする。ただのカンだが…」
ほぅ、と凪子は目を細めた。魔術師としては平々凡々にしかみえない人間だが、聖杯戦争という死地を潜り抜けただけはあるらしい。
凪子は片手に持っていたティーカップを置いた。
「今この町はキャスターがびみょーにちょーっとずつ魔力吸収してるから、居心地は悪いと思うよ」
「何?…キャスターのサーヴァントはろくなものがいないな…。だが、そういうものではない」
「…、教えてあげてもいいんだけど、そうしちゃうとあちらにフェアじゃないから、気になるなら自分で探ることだね」
「…ということは、何かあることにはあるのか」
「ま、そういうことだね。あっさり引いてくれたお礼にそれくらいは教えてあげよう。まぁ、ほんとにそれが私がヤバイと思うレベルになったら私が止めるからそう気にしなさんな」
「?何故貴様が?」
「あんまり魔術師は好きじゃないけど、人間自体はまだ嫌いじゃないから、かなぁ」
「…化け物のことは分からん」
「私も人間のことまだまだ分からんからそんなもんだって」
凪子はそう言って、ペロリ、と最後のサンドイッチを平らげた。

我が征く道は129

「まぁいいや、それはさておき、何の用?何か罪にでも問おうと思ってるなら今度こそあの時計塔折れるよ?」
凪子は紅茶を頼むときに頼んだ軽食のアップルパイにフォークを突き立てながら、エルメロイにそう問うた。

ロード・エルメロイ・U世、とこの男は名乗った。
出自はなんであれ、エルメロイ家の人間が出てきたということは間違いなく時計塔絡みだ。凪子を襲ってきた魔術師連中を始末したことを折り紙のエイを飛ばすことで知らせてはいたから、いずれなんらかの形で接触してくるのではないかとは思っていた。エルメロイの視線に気がついたのも、あまりに自分を意識した視線だったからであるが、そこに敵意らしいものは感じなかった。殺しに挑んできたわけではないのなら、ちょうど昼食もまだだったので、軽食を条件に話を聞いてもいいか、という気になったわけである。

とはいえ、この眉間に皺のよった初対面の男と仲良く話すこともない。凪子はさっさと本題を話すように促した。
エルメロイは凪子の言葉に、はぁ、と小さくため息をついた。
「…君から届いたものは大変な騒ぎになったよ」
「でしょうね」
「何せ貴様をとらえた映像媒体はこれが始めてだからな。確かに貴様の存在の痕跡はところどころで見られたし、功名心にかられた馬鹿共が返り討ちにされることも初めてではない。懸賞を出しているし、未だ協会側が封印を諦めていないのも事実だ」
「はぁ」
凪子は興味なさげにアップルパイを頬張る。サクッとパイ生地が小気味のいい音をたてる。
「…〜〜………。これは私の個人的な意見だが、何故映像媒体など用いた?」
「あ〜ん?疲れてたからに決まってんだろ書くのめんどくさかった。DIEジェストにしたからそんな長くはなかったし」
「だ、…………。…まぁいい、あまりに余裕げなのが腹立たしいが、用件とは関係ないからな」
「あら関係ないの?いいとこの坊っちゃんでもいて喧嘩売られるのかと思ってたのに」
「それが嬉しいとでも言わんばかりの声色で言うんじゃない!」
「うるさいなぁ、じゃあ何しにきたのさ」
カンッ、と、フォークと皿がぶつかり音をたてる。エルメロイは、はぁ、と疲れたようにため息をついた。よくため息をつく男である。
「…ただの確認だ」
「確認?」
「何故貴様が、ここにいるのかという理由を聞きに来た」
「…聖杯戦争に関与されると困るから?」
「なっ……チッ、やはり知っていたか」
エルメロイは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに厄介そうに顔をしかめた。凪子は凪子で、時計塔側の行動の早さになるほどと納得がいく。
聖杯戦争は時計塔側にとってもまだまだ未知数のもの。下手に引っ掻き回されたくはないのだろうし、もしも大聖杯の異常に気が付いていたとすれば、関わられたくはないだろう。とはいえ自分勝手が服を着てあるいているようなところがある魔術師が、異常に気付いておきながら放置している、ということはさすがにないのだろうが。
「そんなに気になるなら廃止すればいいのに、聖杯戦争」
「…時計塔は、あれが本当に根元への到達を為しうるものとは思っていないところがあるからな」
「ま、無理だしなぁ」
「無理…?何故そう言いきれる?」
「ていうかさぁ、私が関係ありませーんって言ったところで、君ら信用してくれんの?あんだけ痛め付けてあげてのに未だに巧妙首取りに来るような組織なのに?」
凪子はぱくり、と二切れ目のアップルパイを口に運んだ。

我が征く道は128

することもないので、凪子はとりあえず町に出ることにした。部屋で着替えているときに見たニュースや、それなりに滞在しているために親しくなったフロントの話によれば、キャスターの魔力吸収の影響が色々なところで出始めているようだ。それはガス漏れによる昏睡だとか、それっぽい理由をつけてごまかされているようではあったが、人々が異常を感じ始めても不思議ではない。それが誰の仕業かなど一般人には分かり得ないことではあるとはいえ、だ。
「(ガス会社かわいそ。さすがに多少は金出てるのかな)」
新都はもう少し賑やかだったように思うのだが、どこかその活気はなりをひそめている。凪子は少しつまらなそうに目を細めた後、ホテルの玄関を出た。
さて、今日はどうしようか。原則聖杯戦争は人目を避けるものだから、恐らく夜になるまではきっと暇だ。
「……、ん」
ショッピングモールで掘り出し物でも漁ろうか、と考えたときに、凪子はある視線に気が付き、そちらを見た。
活気がないとはいえ、休日の新都のお昼時。それなりに人の行き交いはある中から、凪子は迷いなくその一人の視線にばっちり目を合わせる。
「…………まぁ、茶の一杯でも奢ってくれるなら、付き合ってあげないこともないよ」
「…なぜ分かった?」
凪子を見ていたその男は、ファック、と小さく呟きそう返す。凪子はそんな男にカラコロと笑った。
「葬ったことは教えてあげてたから。まぁ予想よりかは早かったけど。あと、そんな感情的な目で見つめられちゃあねぇ」
「フン……茶の一杯でいいのなら安いものだ。付き合ってもらおうか、レディ凪子」
「凪子でいいよ。呼びにくいなら春風でいい。君は?」
「……ロード・エルメロイ・U世。好きに呼べ」
長髪の男―ロード・エルメロイ・U世と名乗った男は、疲れたような表情で肩を竦めた。



 新都の一角にある紅茶専門店、アーネンエルベ―場所を移した二人の姿が、そこにあった。凪子は紅茶のカップを手に持ってすすり、エルメロイは凪子の向かいに座り、組んだ足の上で手を組んだ。
「うーむ…人のいれた紅茶は美味しい。ついつい自分だけだと適当に淹れちゃうから」
「…人間のようなことを言うのだな、貴様は」
「これだけ見た目も人間に似てるとな、適当に人間社会に紛れた方が楽なんだわ、色々と。まぁ、成人女性くらいの見た目だから学校とかは行ったこと、大学に潜るくらいしかないんだけどさ。それにしても、君、随分冷静ね?」
「何?」
凪子はティーカップをソーサーに戻し、頬杖をついてじぃ、とエルメロイの顔を見た。
「いやぁ。エルメロイって私も知ってる名前だからさ。当然、私の事も知ってる訳じゃろ?まぁ君はなんかエルメロイの血筋には見えないんだけどね!」
「!……まぁ、直系ではないからな」
「あぁやっぱり」
「貴様は手出しをしない限り、手は出さないのだろう?なら、それに応じた対応をすればいいだけだ」
「おや。相当回りが厄介者だらけでいらっしゃる」
凪子の言葉に、ふん、とエルメロイは鼻をならし、自分のティーカップを手に取った。それを見下ろし、わずかに目を細める。
「…それに、サーヴァントにくらべればまだ可愛いげがあろうよ」
「!その口振りはなんだ、前回の参戦者か?」
「ほう?なぜそうだと?」
「観戦を楽しむには大事なことがひとつ。参戦者の事前調査だ。今回のを見るに当たって、前回の聖杯戦争も調べたのよ。ちょっと顔馴染みがそれ参加して死んだっぽかったし」
「何?」
「まぁ私の人間関係はどうでもいいんだよぅ。んでな、エルメロイはそこで死んだ。なんつったか…ケイネス?だっけ?君がエルメロイのお家関係で他所からわざわざ行って後を継いだのなら、その死の原因を知っていたんだろうと思ってな。魔術師って没落していく家を手助けするほど優しくないだろ?それに、君は見たところ格別優秀な魔力回路って訳でもなさそうだし、それをエルメロイなんてプライドの塊みたいな家が受け入れたのなら、尚更ね。で、それでいて私よりサーヴァントのが怖い、って判断するってことは、死因だけでなくサーヴァントの力そのものも見たことあるからだ、と思ったわけだ」
「…成る程、伊達に2000年を越えて生きているだけの事はある、ということか」
エルメロイは納得したように笑い、一口含んだあとにティーカップを戻した。
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