2017-3-29 19:42
「確かに、信用はできん。だが、貴様が関与するつもりであったとして、我々にそれを止められるとも思えんしな」
「ほほう?分かってるじゃないの。あれか、一応制止は試みたという既成事実がほしいのか」
凪子は、にやっ、と笑ってフォークを置き、一緒に頼んでいたサンドイッチの皿に手を伸ばした。いくつかある中から卵と菜の花のサンドイッチを手に取り、ぱくり、と頬張る。
エルメロイは組んでいた手を、お手上げだ、と言わんばかりにあげ、肩を竦めた。
「そうとも言えるな。あとはまぁ、精々監督役に通報するくらいしかないな」
「うげぇ、それは嫌だな…正直あんまり関わりたくないんだよなぁ、できるだけ」
「…貴様は随分、聖杯戦争に関しては知っているようだが……すぐに聖杯戦争をあげた辺り、やはり目的は聖杯戦争か?」
「うん、観戦」
「はァ?」
それまで多少の表情の変化はあったものの、つとめて冷静に応対していたエルメロイの顔がポカンとしたような唖然としたような、どこか間の抜けた表情に変わった。完全に予想外の答えに、居をつかれたといったところだろうか。
凪子が思わずぷっ、と噴き出せば、エルメロイはすぐに不愉快そうな顔で凪子を睨んだ。弁明するように、凪子はヒラヒラと手を振る。
「まぁでも、向こうから喧嘩売られない限り、邪魔はしないよ。私のポリシーに反する。あと…余程のことがない限り、大聖杯の使い道にも関与しない」
「…………」
「まぁそれを信じるかどうかは君ら次第だ。でも、私がやることは、相手が一般人だろうが、魔術師だろうが、サーヴァントだろうが、敵対するなら相応の対応をするだけのこと。始末したのを教えてあげたのは、忘れた頃に定期的に教えてあげないと懸賞欲しさに来る馬鹿が増えちゃうでしょ?それだけのことだよ」
凪子はそう言って、今度はハムやレタスなどの入ったサラダサンドを口に放り込む。カラシマヨネーズがピリッと舌に走り、悪くない。
エルメロイは一応二人分のつもりで凪子が頼んだそれらの軽食には手をつけず、凪子をじ、と見ていた。
「……、そうか。ならいい。言質はとった」
「あの若造たちはどうでもいいのかい?」
「ふん、そんなことまで知ったことか。懸賞はかけられてはいるが、貴様の存在はそもそもグレーゾーンだ。そこまでの世話はやかん」
「おやおや。ま、いいけどね、私にとっちゃありがたいだけだ」
三つ目のカツサンドをさらに口に放り込む。染み込んだソースがこれまたおいしい。
エルメロイは少し冷えてしまった紅茶に口をつけ、しばらく考え込む様子を見せたあと、改めて凪子を見た。
「…ここからは私個人の私的関心に関する話だ。貴様はこの聖杯戦争、どう思う?」
「というと?」
「…私が参加したのは第四次だったが、今回のはどうにもキナ臭い臭いがする。ただのカンだが…」
ほぅ、と凪子は目を細めた。魔術師としては平々凡々にしかみえない人間だが、聖杯戦争という死地を潜り抜けただけはあるらしい。
凪子は片手に持っていたティーカップを置いた。
「今この町はキャスターがびみょーにちょーっとずつ魔力吸収してるから、居心地は悪いと思うよ」
「何?…キャスターのサーヴァントはろくなものがいないな…。だが、そういうものではない」
「…、教えてあげてもいいんだけど、そうしちゃうとあちらにフェアじゃないから、気になるなら自分で探ることだね」
「…ということは、何かあることにはあるのか」
「ま、そういうことだね。あっさり引いてくれたお礼にそれくらいは教えてあげよう。まぁ、ほんとにそれが私がヤバイと思うレベルになったら私が止めるからそう気にしなさんな」
「?何故貴様が?」
「あんまり魔術師は好きじゃないけど、人間自体はまだ嫌いじゃないから、かなぁ」
「…化け物のことは分からん」
「私も人間のことまだまだ分からんからそんなもんだって」
凪子はそう言って、ペロリ、と最後のサンドイッチを平らげた。