0cmの距離 9 (絶チル)
2017/05/25 10:52
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大事にしてくれていることは心を視なくても表情と態度で分かる。だけど……。

「それが不満なのねー。わかるわぁ」

「賢木センセイも意外と本命にはへたれなんやな」

「違う違う、そこはむしろ本命だからこそ、だろ。ベタだねぇ」

「あの賢木センセイがっていうのが、わたしたちからしたら面白いけど」

「お、おも…!おもしろがらないでくださいよ。どうしたらいいのか、こっちはその、切実に」

恥を忍んでの相談ではあったのだが、いざ突っ込まれると恥ずかしさはあっさりキャパシティオーバーとなった。真っ赤になってそれ以上続きを話せない##name_1##に少女たちと上官が送る視線は生ぬるいものだ。こんな風に初心だからこそ、彼も手を出しかねているのだろう。純粋だからこそ傷つけたくない、傷つけそうで怖い。そして、おそらくは初めての経験になるだろうから、だからこそ、付き合うことが初めてで、なにもかもを初めて経験する彼女には経験するすべてを素敵なものとしてプレゼントしたい。女慣れして、気障で、かっこつけの賢木ならそんなことを考えていても不思議ではない。

「どうすればいいかって、そんなの簡単よ〜」

にやりと人の悪い、それでいて色っぽさも兼ね備えた大人の微笑みで80歳の美女が笑う。

「いっしょに歩いてるときに、こう、ちょっと遅れ気味、半歩後ろを歩いて袖をひく。彼が不審に思って振り向いたらそこでじっと顔を見つめる。おもむろに目を閉じればはい、据え膳のか・ん・せ・い」

最短距離でテレポートを使い、蕾見は##name_1##の正面から斜め後ろに飛んだ。言いながら実戦して見せ、最後にウィンクを決める。

「ちょ、ばーちゃん。それいったいどこの君に届け」

「べったべたね」

「何よ、べたっていうのは効果があるから何度も使われるのよ。わかってないわね〜」

「いやでもあかんて。相手はさわやか風早くんやのうて、賢木センセイやで。一気に理性のリミッターがそれで解除になったらどないすんの」

「まあ、もう、子どもじゃないんだし?そんときゃそんときなんじゃないの?」

なんとも無責任に言い放つ蕾見にませたチルドレンたちはキャーと楽しそうな悲鳴をあげた。あかんあかんと首を振る葵を面白がって、紫穂と薫が具体的なシチュエーションをシミュレーションし始める。目の前で騒ぎ始めた三人に気を取られている##name_1##の腕を蕾見がそっとつついた。

「で、どうすんの?」

「……や、やります」

成人男性を攻めるということは、つまりそういうリスクもあるということだ。その覚悟があるのかという蕾見の問いかけに##name_1##は生唾を飲み込んで静かに答えた。気合いは十分、ここで引いたら女がすたる。だてに恥ずかしさを押し殺して相談を持ちかけたわけではない。

「いい返事。お姉さん、がんばる女の子は大好きよ」



****


作戦決行当日。

「………おっまえな〜、それわかっててやってんのか?」

「わかっててやってる……って言ったら?」

「頼むから、あんまり俺の理性を刺激するようなことをいたずらにすんなって。ほんと」

「刺激、したくてやってるんだよ?」

「いったい誰に何を吹き込まれた?管理官やチルドレンだろ?誰だ?誰の差し金でシナリオだ?」

慌てたようにまくしたてて賢木は周囲を見渡した。彼女たちが噛んでいたとして、だとしたらこの状況を見ていないはずがない。目を血走らせて周囲に視線を飛ばす賢木は接触官能者の能力をフル活用し、あっさり彼女たちを発見した。辺りの情報を読み取り、彼女たちがいる場所を見つけるとそちらに逃げる。テレポーターである蕾見と葵がいるので、そう簡単に彼女たちが捕まることはない。それなのに追いかけるという不毛なことをし始めている。

「本心から、だったんだけどな…」

仕方がないと吐き出すように##name_1##はつぶやいた。純粋培養ではあるけれど、潔癖ではあるけれど、##name_1##だって女である。そういうことに興味がまったくないわけではないし、相手が賢木なら次のステップに進んだってかまわないとは思う。素直でわかりやすい性格ゆえに同年代の中にいると子ども扱いされがちで、接触感応者ということで時に繊細に扱われもするが、その前に##name_1##だって一人の女の子だ。そんなに大切に大切にされなくたって大丈夫だと言うのに。そうした心の機微を読んではくれないものだろうか。ある意味で冷静な判断力を失っている賢木に##name_1##はそっと心の中で話しかけてみたが、あいにくテレパスではない彼女たちは触れていないと心の声が届かない。話しかけたところで当然のごとく振り返らない賢木に##name_1##は少しだけ頬を膨らませた。






(据え膳、おいしくいただくと思ったんだけどな〜)
(男っていのは総じていざというとき、臆病なのよ。覚悟決めたら女のがずっと強いんだから)
(ばーちゃんが言うと説得力あるわ〜)

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