pilot (HP)
2017/06/06 09:04
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プリペッド通り四番地にあるダーズリー夫妻のもとには三人の同い年の子どもが暮らしている。子どもの内の一人は髪の毛からつま先まで一家の大黒柱であるバーノン・ダーズリーをそっくりそのまま写して縮めたような容姿の男の子だ。肉付きも血色もいいつやつやとしたほっぺも、その盛り上がったほっぺの上にちょこんと乗っている薄い水色の小さな目も、母親からの遺伝子はどこにいってしまったのかと不思議なくらいに父親似であった。名前をダドリーという。このダドリーには双子の妹が一人いた。ではこの片割れが残りの母親の遺伝子を引き継いだのかと言うと、そうでもない。ダドリーの双子の名前は##name_3##と言うが、##name_3##は母親であるペチュニアと瓜二つというところまではいかなかった。まったく血のつながりがないというほどではない。細身の体型は金髪のかつらをかぶった豚のような父親譲りでは間違ってもないので母親から授かったものであるのだろうが、母親のように首が人の二倍の長さがあるほどではなかった。一家の中で一番##name_3##と血のつながりを感じさせるのは双子の従兄弟であるハリー・ポッターだ。細面の顔に、あちこち好き勝手な方向にはねている黒髪は似ても似つかないが、目が驚くほどに同じであった。明るい陽の光に透かして見る若葉の色をした目はダーズリー家の中で##name_3##とハリーしか持っていない。ダドリーと並んでも兄妹に見られることはまずない##name_3##であるが、髪の色は違っても細身のハリーとはよく兄妹に間違われていた。かわいい愛娘と一家の厄介者がいっしょくたに見られるようでバーノンは二人が兄妹に見られるたびに豚のような鼻を不機嫌に鳴らしたが、ハリーにとって##name_3##と家族に見られることは喜ばしいことであった。物心がつく前に両親をなくしてしまったハリーにとって、育ててはくれているが愛情をもって接してくれているとは言い難いダーズリー家は家族とは思えなかったのだ。目の前で自分と同い年の従兄弟たちが猫かわいがりをされているのを見て育ってきたので、否が応でも自分の身と比べてしまう。それでもハリーが人生を諦めずに生きてこれたのは、愛情を注がれて育ったはずの##name_3##が唯一ダーズリー家の中でハリーに優しかったからだ。ダドリーと言えば我儘放題の悪ガキに順調に成長していっているというのに、同じ環境にあって##name_3##はダドリーとまるで違った。ダドリーといっしょになってハリーをいじめたことは一度もなかったし、どころかハリーが食事抜きになると両親にも片割れにも内緒でこっそりご飯を持ってきてくれた。ダドリーの癇癪からさりげなくかばってくれたことも数え切れないくらいにあるし、一家の中ではタブーとされる魔法のような荒唐無稽な話も瞳をキラキラさせて聞いてくれる。自分と同じ瞳が好奇心に輝いて、話に相槌を打ってくれるのを見るのがハリーは好きなのだ。バーノンやペチュニアはよく子どもたち二人のことを天使のようだとほめそやすが、ハリーにとっての天使は##name_3##ただ一人である。一家に似ても似つかない##name_3##と唯一、他人から見てはっきりと血縁だと分かる特徴を持つ自分がハリーにとっては誇らしかった。



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●月●日。――一年で##name_3##がもっとも複雑な気持ちになる一日は小鳥のさえずりに起こされて始まった。ベッドの上に身を起こして、ぐっと伸びをする。胸元まである赤い髪を手で軽く梳いて、布団の中から足を出す。それだけで聞き分けのいい髪は、見苦しくない程度に整ってくれるのだ。鏡の中の自分を確認して、昨日のうちに準備をしておいた白いシャツワンピースに袖を通した。誕生日にはこれを着て、と母親が三日も前から声を弾ませて差し出してきたものだ。身支度を終えて部屋を出ると、次に顔を洗いに下に降りる。冷たい水で体に残った眠気を覚まし、リビングに入ればそこにはいつもと同じようにソファに腰をかけて新聞を読んでいる父親と、一年に二度ある光景が並んでいた。つみあがっているのは二人分の誕生日プレゼントであり、競技用自転車なんかも入っているから、場所を大きく取っている。プレゼントの山を一瞥して##name_3##は父親に近寄った。

「おはよう、パパ」

バーノンは初めて見る服を身にまとった##name_3##を見て、相貌を崩した。手にしていた新聞を無造作に傍らに置いて、両手を広げると娘を迎え入れる。

「どこの天使が舞い降りてきたかと思ったよ。誕生日おめでとう、##name_3##」

そうして口元のひげがちくちくと刺激するキスを##name_1##の頬に贈った。##name_3##もお返しにキスを返す。

「ありがとう」

「まあまあ、私たちのあんなに小さかった##name_3##ちゃんがこんなに大きくなって」

仲睦まじい夫と娘の様子をこれぞまさしく思い描いていた夢の通りの光景だと眺めていたダーズリー夫人が声を詰まらせる。

「ママ、大げさよ。おはよう」

父親から離れた##name_3##は途中までよそわれたサラダをそっちのけにして目を潤ませている母親にも同じように抱きついた。

「おはよう。そして、お誕生日おめでとう。私のかわいいエンジェル」

例年通り、もともと子どもにめっぽう甘い親ではあるが、砂糖をふんだんにまぶしたダドリーの好物の一つであるドーナツよりも誕生日の今日はさらに甘い。そんな両親のありがたくも胸やけがしそうな愛情を苦笑いで受け入れる。ようやく離してくれた母親は蜂蜜のようだった顔をマスタードよりもピリリと引き締めて部屋から出て行こうとしたものだから、##name_3##はその腕を後ろから引いた。

「ママ。ハリーなら私が起こしてくるわ」

「あら、いいのよ。##name_3##ちゃんがそんなことをしなくても。自分で起きてこないあの子が悪いのだから」

「ハリーにお誕生日おめでとうって言ってもらいたいの。今日は私の誕生日だもの、言ってきてもらってもいいでしょ?」

マスタードから蜂蜜への早変わり。自分の親ながらこの切り替えはある種見事だと思う。母親の変わり身の早さに感心しながら、両親いわくの天使の微笑みを浮かべた。ダドリーのヒステリーにめっぽう弱い親だが、自分のこの笑顔に弱いことも知っている。愛情を注いでもらっていること、何不自由のない生活を与えてもらっていることを感謝しながらも一方で従兄弟への態度は子どもながらにひどいと感じる。朝一番に、それも誕生日に、ハリーが怒鳴られている姿は見たいものではなかった。引き止めた腕を離して、母親を追い越す。振り返れば予想していた通り仕方がないわねぇと頬に手を当てる母親がいた。廊下の上からドタドタとにぎやかな足音が聞こえてくる。それは階段途中で立ち止るとドスンドスンと飛び跳ねはじめた。

「ダドリー!」

兄弟が階段が抜けるのではないかと心配しなければならないレベルで踏み鳴らしているその下はちょうどハリーがいる部屋だ。

「##name__3##!おはよう!いい朝だね、なんたって今日は僕らの誕生日だ。おめでとう」

「おめでとう。向こうにプレゼントがいっぱい届いてたわよ」

両親同様に自分にはいい顔を向ける兄弟に向かって。プレゼントが山になって崩れそうになっていたリビングを指すと、彼のもともと血色のいい頬がさらに艶々と輝いた。

「自転車は来てるかな?」

「届いてた。見てみたら?」

「うん!」

あんな馬鹿でかいもの、見間違えようがない。自分たち兄妹に甘いのは何も両親だけではないのだ。親戚一同からの愛が届いている。それを伝えれば、ダドリーはハリーへの嫌がらせなどすぐに放り出し、一目散に階段を駆け下りた。幼稚な嫌がらせをするよりも、まっすぐにプレゼントの山へ向かった方が何倍も楽しいだろうに。自分の横幅の2倍はありそうなダドリーを廊下の端によってやり過ごし、階段下の物置をノックする。

「ハリー、起きてる?」

「起きてるよ」

ドア越しのくぐもった声は寝起きよりはシャンとしていた。程なくしてドアが開かれたが、ボサボサの頭をいつも以上にあちこちに跳ねさせたハリーのグリーンアイはまだ半分しか開いていない。

「おはよう、ハリー」

「おはよう、##name_3##。それと、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「あー、その、僕。毎年で悪いんだけど、君への誕生日プレゼントを用意できなかった」

居候扱いどころか厄介者扱いしかしていないハリーに両親が金銭、その他女の子にプレゼントができそうな何かを渡すはずがない。悪いなんて思わなくてもいいことを悪いと思ってハリーが気にするものだから今日この日がとても気まずいのだ。しかし##name_3##が気にするとハリーがますます気にしてしまう。

「言葉だけで十分うれしいんだけど、気にしてるなら朝ごはんのベーコン焼いて。内緒だけど、ママが焼くよりハリーが焼いた方が好きなの私」

同居生活十年をかけて学んだハリーに気を遣わせない言葉選び。効果は抜群で半分閉じていた瞳が嬉しそうに瞬く。後ろをついて歩いてくるハリーは##name_3##にとってかわいい弟のような存在であった。

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