目隠しさん

話題:怖い話して!!


都市伝説や洒落怖の類が好きです。
小学生の頃はそれ系の本ばかり読んでいた記憶があります。

まあそんな中で覚えている怖い話を一つ。ちょっと文章を怖い話っぽく仕立て直してあります。

「目隠しさん」

恐らくは、メリーさんと呼ばれる都市伝説の亜種。

雨が降った夏の日のこと。
ある少年が通う小学校の門に、影があった。
その影はどこにでもいそうな女だったが、既に雨は止んでいるにもかかわらず頬にぺったりと張り付いた長い髪と、白い肌を強調させようとするかのような黒い目隠しをしていたことにより、その存在は異様に見えた。
(気持ちが悪い)
少年はそう吐き捨てるように思って、その女の前を早足で通り過ぎた。
次の日、女はそこにはいなかった。誰かを待っているのかと思っていた少年は拍子抜けし、すこし安堵しながら家路を急いだ。

次に少年が女の姿を見たのは、あの日と同じような雨の日だった。
ねっとりと肌にまとわりつくような湿度に顔をしかめながら、いつもの通学路から帰る。
その通学路の電柱の陰に、女はいた。あの日と同じように髪をぺったりとはりつけて、黒い目隠しをつけたまま。
少年は、反射的に悲鳴を呑みこんだ。隠されている眼で、女は少年の方をじっと見ていた。隠されているはずなのにその眼は、べっこりと落ちくぼんでいるように、濃い影を落としていた。
ぎこちなく手足を動かしながら、女の前を通りすぎた。その女の姿が見えなくなる交差点を曲がると、張り詰めていた気が一気に緩んで膝が笑って止まらなくなった。
少年は帰宅経路を変えることにした。

その後は、少年は女に会うことなく帰宅する日々が続いていた。
ただの不審者だったんだ、そう自分を納得させ、そして安心させていた。
あの女のことは誰にも言わなかった。臆病だと笑われるだけだと、そう思っていた。
その日も雨が降っていた。

朝、少年が家を出ると、家の門の前に影があった。
女だ。そう思うと背筋に冷たい汗が流れた。
今までと同じように髪をぺったりとはりつけて、こちらからは見えないがきっとその目には目隠しがされている。
迷ったのは一瞬だった。少年はそのまま家の中に戻り、母に門の前の女の存在を訴えた。しかし
「なにを言ってるの、馬鹿な子ね」
少年の言葉は取り合ってもらえなかった。母親には、女の姿が見えていなかった。

それでもなんとか仮病を使い、その日は布団の中で一日を過ごそうと決めた。
時々布団から起き上がって門の前を確認すると、まだ女はそこにいた。
(喉がかわいた)
そう思い少年は階下に降りて、水を一杯だけ飲んだ。それだけ飲んで、すぐに自室に戻った。
ふと、また門の前を見ると、女の影がなくなっていた。驚いて窓の近くによって確認したが、やはりそこには姿がなかった。
よかった、そう安堵した少年の目に、ひやりとしたものがぺたりと貼り付けられた。
「なっ」
母親かと思ったが、母親は先ほど買い物に出かけて留守だ。門を何度も見ていた自分が帰宅を見逃すはずがない。
だとすれば、これは、なんだ。
フーッ、フーッ、という荒い息遣いが背後から伝わる。そこでやっと少年は、自分の目に張り付けられたひやりとしたものが、手の平だということに気がついた。
目隠しだ、あの女と同じように。
「    ねえ」
かすれた声が背後から聞こえた。しゅるり、という布が落ちる音も。
「何も見えない、って。怖いの」
「とても怖いの」
「こわいこわいこわいこわいこわいこわいの」
「くらいくらいくらいくらいくらいくらいくらいの」
少年は既に恐怖で歯の根が合わなくなっていて、言葉も発せない。
少年には何も見えなかった。女の手の平以外、何も。おかしなくらいの、闇だった。
「だから、ねえ?」
ふっ、と少年の目からメカクシが外される。
光だ、と気付いた次の瞬間には、女の落ちくぼんだ目が目の前にあった。メカクシの下に隠されていた暗い目。
まっくら、だ。
少年が最後に見たのは、間近であでやかに笑う女の顔。
そして、真っ黒に塗られたような眼。
「君もおそろいに、なりましょ?」