2017/12/12 Tue 04:15
大戦小話(4嵩儁)







「あー、と…もうひとつ聞きたい事があったんだけどよ」

帰り掛けた私達の背に聞こえた高めの声。あっちの事で、と言って口を噤んだ朱儁将軍は、空いた二拍ほどの間にどんな戸惑いがあったのか。その視線は気まずげに泳いだままこちらに向かない。次の言葉を待つ刹那、何ともなしにその視線の先を追っていた私は、彼の問いたい事に唐突に思い当たってしまった。

「??、あちらの戦況は、」

と不思議そうな表情をしながらも答え始めた韓当殿を目で制す。戦況についてはもう報告が行ってるだろうし、朱儁将軍が知りたいのはたぶんそれじゃないのだ。

「…皇甫嵩将軍ならお元気そうでしたよ、何事かにお困りの様子も見られませんでした」

私がそう言うと、朱儁将軍はぱちぱちと瞬いたあと、その顔を綻ばせた。

「…そうか!!そんならいい」

にかっと笑う朱儁将軍はまるで年若い少年か少女のようで、その背に国を背負って戦う人にはまるで見えない。
短いままの銀色の髪と、口元から覗く八重歯がいやに幼く見えて、私は何となく目を逸らした。…幼く見える事に関しては、人の事は言えないなと自分でも思ったけれども。



「…朱治、何故彼の聞きたい事がわかったのだ?」

朱儁将軍の前を辞して、その帰り道。
韓当殿は怪訝な顔しながら顎鬚を撫でている。

だって、韓当殿。
皇甫嵩将軍の元を出発する時、まったく同じ事を聞かれたから。眉間を寄せたまま至極真面目な表情で、真っ直ぐこちらを見据えて。

"朱儁は、どうしてる"


お変わりないようです、とお伝えしても、その表情は変わらないように見えたけれど。そうか、と答えて。遥か遠くを見つめた皇甫嵩将軍の目に写っていたのは、きっと高く広がる蒼天だったのだ。







さんぽけ呉伝ネタ朱治視点






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