グミ科のメガネ少年のはなし
6月が止んだ
わたしは雨に濡れるのがすきで
それは何故かというと
雨に打たれてると
寂しさが満ちてきて
涙がでても雨と混ざって
どちらがどちらかわからなくなって
もうそのままわたしは
消えてしまえるんじゃないかって
思うからだ.
ガスタンクは今年も爆発しなかった
安心する反面、
なぜだろうって思う。
随分昔の6月、
グミ刀を持った少年に出会った。
彼は
アクアリウムで
綿の津波に浸ったとき
わたしに言ったことがある.
ガスタンクは年々膨張を続けて
ここは爆発してしまう
だから僕らは
秘密の地下トンネルをくぐって
シベリアまで失踪するんだ、と。
わたしは、それは大変だと思って
彼と作戦会議をひらいた。
わたしたちはまず
偽造パスポートをどうやって用意しようか相談しあった。
なにを持っていくかも話し合ってわたしは
青いバラを持っていこうと思った。
(実は、
そのメガネ少年はマフィアだったけど、
青いバラ職人でもあったのだ)
彼は
わたしの手をずっとつかんでいた。
わたしはおそらく
その瞬間
はじめて人を
苦しいくらい好きだと思った
(このままシベリアまで
ふたりで無事に失踪できたなら
わたしはきっと
死んでもいいと思っていた、
わたしは彼に対して
好きという言葉を使いたくなかった、
それは恋や愛なんかじゃなく
もっと特別なものなのだと思った、
彼自体の存在が
ひとつの現象だった気がする。)
イルカとエイと
あと
神社のワームホールにも
別れを告げた
カラスの謀報員に見つからないように
わたしたちは夜を走った
それでも
その物語は、あっけなく終わってしまう。
わたしはバスに乗せられて
小説の中から放り出されてしまったのだ。
最後にわたしは
メガネ少年の手を握って
おやすみと言ったけれど
それがもう
本当に最後なのだ
と
薄々気づいていた。
あれから幾つも月が巡って
わたしはまたひとつ記憶から遠のいた。
それでも6月がくる度に
わたしは
その小説の一端を思い出して
泣きたくなって
消えたくなる。
どれだけ晴れても
誰と挨拶をしても
どこへ出かけても
わたしはもう
靄がかかった景色にしか見えない。
彼に似たものを
100集めて
彼に似たものを
100愛したけれど
そこにはひとつだって
彼はいなかったのだ.
泣いて、泣いて
なぜ泣いているのか
わからなくなって
そしてまた泣く。
彼は、わたしを寂しくする全てだ.
ガスタンクは今年も爆発しなかった。
優しい嘘なんて嫌いだ
それはあまりにも暖かくて
何度だってわたしを振り返らせる。
どうせなら
死にたくなるほど
深く深く、
傷つきたかった。
それは
グミ科のメガネ少年のはなし
2009-7-11 01:33