庭球/赤也
話題:名前変換無し夢小説。
全国大会が終わって、今は神奈川に帰る為のバスの中。先輩達は行きとは違い一人ずつ窓際の席にばらけて座っていて、それに釣られてか俺も一人で窓際の席に座った。
そしてバスが発車して暫らくして、俺は徐に電話を掛け始めた。先輩達はみんな窓の外を見てるから、そんな俺の行動に気付かない。それに安心しながら聞いていたコール音が3回鳴り終わった時、聞き慣れた声が聞こえた。
『もしもし?』
今朝も聞いた、優しいハスキーボイズ。その声を聴いてちょっと目が熱くなった。それには気付かない振りをして、いつもみたいに呼びかける。
「姉、ちゃん…?」
思いの外小さい声が出て口を閉じる。部長の試合の後いっぱい泣いたはずなのに、声はどこか震えていた。
『勿論。あなたのお姉さんですよ?ふふ、そろそろかかってくるかなーって思って携帯片手に待ってた。』
「マジ?」
『マジマジ。』
電話口で姉ちゃんの小さな笑いが聞こえてきて、落ち込み気味だった心がちょっと持ち直した。なんかいつもより電話の音が大きく聞こえる気もするんだけど、俺は構わず口を開いた。言うのは勿論、試合結果。
「あんね、姉ちゃん…立海、負けちゃった、んだ…。」
わざわざ電話で伝えなくても、ラジオとかでもう知ってると思う。それでも自分の口で伝えたくて、俺は報告を続ける。
「最初は真田副部長と手塚さんの試合で真田副部長が勝って、次の俺と柳先輩対海堂と乾さんの試合で勝ったんだ。あっちの棄権負けだけど、勝ったんだぜ?んで次が仁王先輩と不二周介。凄かったんだ、この試合。仁王先輩、あの手塚さんに化けたんだぜ?本当、凄かったんだ。でも良いとこまで押したんだけど…駄目で、次が丸井先輩とジャッカル先輩対菊丸さんと…あと誰だっけ、あの、変な髪形の、」
『・・大石君?』
「ああ、そんな名前だったかも、ゴールデンペアとか呼ばれてる人達。先輩達いつも以上に調子良かったんだ、俺が見ても分かるくらいにさ。…なのに、あっちがシンクロ?ってーのしてきて、負けちゃった。んで、最後に部長と越前リョーマ。部長退院してからまだそんな立ってないのに超強くて、越前なんて五感奪われて試合も碌に出来なくなったんだ。マジ凄くて勝ったって、思ったんだ。……なのに、なのにさ。越前が天衣…なんとかの極み?ってのに目覚めたらしくて…試合の流れが、変わっちまって…。部長が…負け、…」
最後の声は俺自身も聞こえないぐらい小さくなった。姉ちゃんは俺が一人話してる間も相槌を打ってくれてて、思ったよりもスムーズに話せた。本当、姉ちゃんは聞き上手だ。
『赤也。』
「んぁ?」
突然姉ちゃん名前を呼ばれて変な返事をしてしまう。でもしかたないじゃん。しゃべり終わった途端喉が痛くなって、声、出せなくなっちまったんだもんよ。
そんな俺に気付いていながら、姉さんは囁く。さっき聞いていた以上に優しい、優しい声で。
『準優勝、おめでとう。』
「!・・っ、なん、で…おめで、と、う‥なんだよ…、」
苦しげな声で、それでも口を開く。準優勝でおめでとうなんておかしいじゃないか。俺達は王者立海だ。優勝じゃなきゃ、意味がない。
そんな思いの俺に姉ちゃんは、言った。
『だって赤也が初めてチーム≠ニして戦って掴んだ勝利だもの。』
って。
「チーム、」
『そう。ジュニア大会ではいつも一人で試合して一人で優勝してたじゃない?勿論それも凄い事で、赤也が嬉しそうに報告してくれるのが私の楽しみだった。その赤也が、今度はチームとして、先輩達と一緒に戦って、沢山の試合を勝ち抜いた。確かに最後の最後で負けてしまったけれど、それであなた達の強さや頑張りが否定される訳じゃない。いいえ、させないわ、誰にも。それに共に戦ったからこそ嬉しさも悲しみも分かち合える、そんな素晴らしい仲間をあなた達は得た。これは沢山の人生がある中で、奇跡に等しいと思わない?きっとそれはこれからもあなた達に大きなものを与えてくれる。今以上の喜びも。…だから今は、』
そこで一旦姉ちゃんの声が切れた。そこまで黙って聞いてた俺はバスの静けさにやっと気付いて、そして誰かの啜り泣くような声に目を開く。そしてさっきよりも大きな声で、姉さん言い放った。
『お互いの悔しさの中で、泣けるだけ泣いておきなさい。』
その言葉に俺は、俺達は、声を上げて泣いていた。
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朝思いついて夜中書き始めた赤也姉小説。全国大会編の同人漫画をpixivで大量に読んでしまいこんな話を思い付きました。ただ『準優勝おめでとう』と『チームでもぎ取った最高の結果』というのを書きたくて書いたんですが、他のところは未計画でボロボロ…。でも楽しかったよー^^
設定:
6歳上の赤也姉。結果はラジオとかで知っていたけど、赤也からいつもくる報告電話を待っていた。電話は赤也側が何故かスピーカーモードになっていて、それに気付かず話を続けている赤也。先輩らはそれに気付いていて敢えて無視してくれていた。それには姉も電話口で気付いていた。なので話の途中から赤也だけでなく全員に伝わるようにと思いを込めて、最後の言葉を呟いていた。それが伝わったのか最後は全員号泣、というオチ。赤也は話の途中から泣いてました。本人は気付いてないって設定。
色々書ききれなくて曖昧になりましたが、どうにか話が伝わってたらいいなーと思います。
お粗末様でした!