逃げたいと、思ったことある?

ポニーテールが似合う彼女は、雨降りの街をまっすぐ見て私に聞いた。
私は、一瞬遅れて「本当に思ったことは、ないよ」と返しただけでそれは、雨が街の埃を一掃するのと同じように吸い込んでしまった。

「強いの?」

また、彼女は私を見ずに言う。強いだの弱いだの、じゃないと思うんだけど生き物ってすぐ強い弱いを決めつけようとする。
きっとじゃなくても不安ってやつなんだろう。やっぱり私も誰かの地位の上へ立ちたいもの

「えー、強い弱いで言ったら弱い?逃げる先で生きてく自信ないし?」
「……そういうことじゃないの」
「そういうことよ」

彼女はやっとこちらを見たけど、私は彼女を見なかった。
逃げた先が幸せだとは限らないのに、逃げたいと思考を巡らせてしまうのは、やっぱり希望というやつを求めているからなんだろうか。

「どうして」
「ドーシテモ、よ」

こころが逃げたいって言う
からだが逃げようって言う
あたまは貴方を馬鹿にしてばかり

あたまは、いつだって言うんだ
私の悪いとこをたくさん見つけて来て泣きながら「やーい、やーいヨワムシやーい。おまえがわるいんだやーい、あいされてなんかねぇーんだやーい、逃げるなんて卑怯ダヨナ!」

やーい、やーいって木霊を残してまた自傷ネタを探しに行く。

住み着く本当とうそと、社会的知識が間違って折り重なって苦しくなって違う世界求めて足を無茶苦茶に動かしたくなるんだ。

逃げたいって多分」

変わりたい、ってことじゃない?
変われたら、きっと多分そうして転じて…たくさんの美しいもしもが私を可愛がってくれるって信じているんじゃない?

でも、変わることが難しくてやっぱり逃げたいって悲観的で可哀想な言葉をただ、使いたくなるんだ。希望という一番恐ろしいものから目を背けたくなるんだよ。

「変わった先で逃げたくなったら?」
「まだ変われるってだけじゃないかしら」

「きれいごと?」
「虹が出たね、早くに帰ろう!」

きれいごとだよ、信じようと思えないならば全てきれいごとにしていいんだ。