「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃ〜ぁぁあん」
バタバタと姉ちゃん家に乗り込んだ。
「なによ来希、騒々しい」
突然の訪問、しかも騒がしい、さすがに姉ちゃん、ちょっとウザそう?
でも気にしなーい!!
だって今週の来希はスーパーなんだぜ☆
「姉ちゃん姉ちゃん!あのね、エースがね、来希にぷ…ぷ……プロポーズしてくれたの!!うふふ、来希幸福〜」
「え?マジで?」
なによ、疑うの?
「マジよマジ!きのうの夜、来希とずっと一緒にいたいって、結婚しようって、云ってくれた!!」
来希、姉ちゃんに連れられて喫茶店に行って、お義兄さんからエースを紹介してもらったときから、エースに夢中だもん。
でもエースは…毎日を生きることで精一杯っていうか先のことなんか考えてなさそうっていうか、来希のこと、どう思ってるのか不安で。
だからきのうの夜は、ほんとに嬉しかった。
「そう…エースが…」
姉ちゃんは呟くと、その頬に涙がこぼれた。
「な…!!なんで姉ちゃんが泣くの?」
「だってマルコさんが…エースは守る者がいればもっと楽しい人生を送れるのによいって云ってて。それが初香の妹だったなんて…ステキじゃん?もちろん、来希が幸福なら、それが1番嬉しいんだけどね」
うへへ、と姉ちゃんが笑う。
「うん、姉ちゃんはいつも来希のことばっか心配してくれて…ほんと感謝してるんだ。もちろん、エースを紹介してくれたお義兄さんにも」
えへへ。
「お義兄さんだなんて…マルコさんが聞いたらまた照れちゃうよ?」
お義兄さんは、来希にこう呼ばれるのを厭がる。
でも、事実じゃん。
「そういえば姉ちゃんは、お義兄さんに何て云ってもらったの?」
あの照れ屋なお義兄さんが、姉ちゃんに何て云ったのか、すごく興味ある。
「ふふ、内緒」
「えー教えてよー」
内緒なんて、気になるじゃん。
「内緒っていうか、うん…実は、さ。プロポーズ、してもらってないんだ。ただなんとなく付き合ってなんとなく一緒になっただけだから。もちろん、マルコさんのことは大好きよ?マルコさんも、そう思ってくれてると思う」
何それ!!
お義兄さんへの怒りがフツフツと沸いてくる。
そんな曖昧な感じで来希の大事な姉ちゃんを縛り付けてるの?あのパイナップルめ!!
「姉ちゃん!ダメだよそんなの!そういえば姉ちゃん、結婚式だってしてないよね?任せて!来希にいい考えがあるんだから!!」
“また夜ね!”と云って、姉ちゃん家を出た。
*****
夜、お義兄さんが帰ってくるのを家の前で待った。
「ん?初香の妹じゃねェかよい。何やってんだ?こんなとこで」
呑気に云うお義兄さん。
「ねぇお義兄さん、姉ちゃんにプロポーズしてないって、ほんとなの?」
「何だよい、薮から棒に」
来希の勢いに、少し尻込みするお義兄さん。
「何だよい、じゃないわよ。あのね、云わずに伝わる気持ちなんてないんだよ?このまま何の言葉もなく姉ちゃんと一緒になんて、いられると思わないでよね!!」
「…何の話だよい?」
お義兄さんは、頭にハテナがたくさん浮かんだような顔をしてる。
「だから、してないんでしょ、プロポーズ。姉ちゃんはああ見えて意外と乙女なんだから、ちゃんと言葉にして伝えなきゃダメ…」
「待てよい、なんでプロポーズしてない前提で話が進んでるんだよい?おれァちゃんと云ったぜ?」
そうだよ、ちゃんと云っ…た……ぜ?
「…は?」
「だから、ちゃんとプロポーズしたって云ってんだよい」
「だって姉ちゃんが…何も云ってくれてないって…」
云ったよ…ね?
「アイツが憶えてないだけだろうがよい」
ダメだこりゃ、1人ずつ聞いてもわかんない。
家の中に入ると、お義兄さんもついてきた…って、そりゃそうだ。
「姉ちゃん!お義兄さん、プロポーズしたって云ってるよ?」
どういうことなの?と聞く。
「何よいきなり…」
「した…よな?」
お義兄さんも、後ろから聞く。
「え…いつ?」
姉ちゃんは本気で心当たりがないって顔してる。
「いつ?って…いつだったかは憶えてねェけどよい、夜、ベットの中で…」
「「わーわーわー」」
突然何云うんだ、このオッサン!
ほら、姉ちゃんも慌ててるじゃんか。
「お前、あのとき惚けてたのかよい?」
「妹の前で生々しい話しないでよ!」
全くだよこのバカ夫婦…。
「道理でぼんやりした返事しか返してこねェと思ったよい…」
呆れてモノが云えない…。
「そんなときに大事な話をするほうが悪いんだと思う…」
ってかもう勝手にすればいい。
「初香…。憶えてねェなら仕方ねェ。でもな、お前はおれの女だ。おれはお前しか見てねェ。わかったかよい?」
お義兄さんが云った。
ちょ…来希の前で…照れ屋じゃなかったの?
誰このおれ様。
「うん…」
姉ちゃんはそれだけ云うのが精一杯って感じで、お義兄さんに抱き付いた。
ほっ…ひとまずよかった。
「はいはーい、来希から提案がありまーす!晴れてエースと来希も結婚が決まったってことで、ここは2組一緒に披露宴ってのはどうだろう?」
甘い空気を醸し出す2人に割り込むように、そう云った。
空気クラッシャー?上等だ。
「「は?」」
もう、2人してアホみたいな顔しないでよ、特にそっちのパイナップル!
「エースの奴、プロポーズしたのかよい?」
「そうなのよ、マルコさん。もう初香、嬉しくて嬉しくて」
「ね?いいでしょ?姉ちゃんもドレス着たいよね?」
姉ちゃんと一緒に披露宴、来希、マジだよ?
「おれ、エースと義兄弟かよい」
「あ、そういうことになるね。どうする?エースに“お義兄さん”とか呼ばれたら…」
「冗談じゃねェよい!おい、初香の妹!これからはおれのこと、名前で呼べよい!!エースがつられてお義兄さんとか呼びやがったら張り倒すからな!!」
「ちょ…!!聞いてるの?2人とも!!」
かなりドタバタしたけど、数ヶ月後、ほんとにうちらは一緒に披露宴をしたのでした。
*おちまい*